第64話 「頑張ったんだな」
Dクラスに入って早々、キャメルはBクラスの生徒から交換条件を持ちかけられたらしい。
「今まで通り練習台になるなら、ソディーに危害は一切加えないと約束するって」
「なんだよ、それ! 何の恨みがあって」
「ただの言い訳よ。私という練習台を手放したくないための。でも、ソディーまで持ち出されたら、断れなかった」
だから、今でも練習台にされているってことか。
「それなら、俺がキャメルを助けたって広まれば」
交換条件が破棄されたことになる。ソディーが危ない。
「シュラ。私だけじゃ、もうソディーは守れない。お願い。助けて」
今まで1人で抱え込んできたキャメルをここで見捨てることはできない。
そんなやつは、男じゃない。仲間じゃない。
「分かってる。言っただろ。俺は、味方だって」
「ありがとう」
キャメルは震える手で、俺の裾を握った。
「ソディーは今、どこに?」
早く行かないと、危ないかもしれない。
「今日は、学校を休んでたらしくて。多分、寮にいると思う」
「寮か。寮は安全なのか?」
敵が、男子だけとは限らないからなあ。
「同室の子が、確かSクラスのサン・メナクスって言ったかな? Sクラスの子だから、いじめには関与してないと思うけど」
「サンが!」
あいつ、Sクラスになってたのか。
いや、今俺の私的な事情はどうでもいい。
「サンなら大丈夫だろ。あいつは俺の友達だし。そんなこと許すような性格じゃない。あいつと同室なら、多分守ってくれているはずだ」
「そう。なら、とりあえず今日は安全ね。良かった……」
「おい? キャメル? おいおい」
キャメルは、寝息を立てて眠ってしまった。気を張っていたのかもしれない。
それより、こっからどうやって連れて帰れば。
「おや。もう、終わってたんかのう」
ドアの方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「じいさん」
「無事、助けることができたようじゃの」
そうだ。俺は、じいさんに言われてここに来たんだった。
「あんた、知ってたんならどうしてキャメルを助けなかったんだ」
「わしが助けたところで、根本は解決せんじゃろう」
確かに、正論だけど。
じいさんが助けても、その場しのぎにしかならない。俺が、本気の心を伝えたから、キャメルは助けを求めてくれたんだ。
「あんた、本当に何者だ」
「まあ、仲良くなれたみたいじゃし。教えてやるかのう。わしの名前は、リーン・メイスン。一応庭師をしておるが」
リーン・メイスン? ん? メイスン?
「メイスンって、第5エリアの領主の」
「そうじゃ。わしは、現領主ロトの父親じゃよ」
ロトさんの父親。てことは、ユアンのおじいさん。
あれ、待てよ。確か、師匠が。
「もしかして、2本の剣を操る人って」
「うむ。わしのことじゃな」
じいさんは、満足そうにうなずいた。
道理で、詳しかったわけだ。自分も2本の剣の使い手なんだもんな。
まさか、こんなに近くにいたとは。
「なら、俺に剣術を教えてください」
「まあ、いいじゃろう。どうやら、ただの王子様ではなさそうじゃからの」
じいさんは、やや含みのある言い方で承諾した。