第61話 「俺は人を傷つけるために強くなりたいんじゃない」
じいさんは、俺は両利きだと言った。すぐに2本の剣を扱えるようになると。だけど、今まで練習して来なかった。なら、慣れてる1本で戦うしかないか。
正直、人を傷つけるのは怖い。殺したって、殺されたって、文句は言えない。あの時の恐怖がよみがえる。
でも、ここには守ってくれるリュンも師匠もいない。俺が、キャメルを守るしかない。
負けるわけには、いかない。
「おいおい。魔法に剣で対抗する気かよ」
男たちのあざ笑う声が響く。
勝手に、言ってろ。
「はっ。こんなチビが俺たちの相手になるかよ。サンテック・ウォール!」
電気をまとった水が飛んでくる。
避けたらキャメルに当たる。剣で切っても電気にやられる。
それなら。
「ウッデッド!」
剣先から生じた木が、水を貫いた。
出来た。木を生じさせる然魔法、ウッデッド。やっぱり、どの魔法でも、剣から出すことが出来る。
「おい。あいつ今、剣から手を離したか」
「いや。お前、何して」
男たちの顔に、初めて混乱が浮かぶ。
俺は、その隙をついて一気に間合いを詰めた。
「ガキだと思って甘く見るなって、教わらなかったんですか? 先輩方? ウィン」
「うわっ」
俺は剣を横一線に振る。剣から出た突風は、男たちを吹き飛ばした。
男たちは、軽いかすり傷程度だ。これ以上、傷つけたくない。どうか、これで引いてくれないかな。
「な、何だよ。あいつ」
「おい。今日はもう行こうぜ」
「あ。もうキャメルに手を出すなよ!」
男たちは俺の言葉に返事をせずに、旧道場から出て行った。
「何なんだよ。キャメル。大丈夫か」
後ろを振り返ると、綺麗な身体のキャメルが茫然と俺を見ていた。
傷はもう治ってるみたいだな。
「おい、キャメル?」
キャメルの肩に手を触れる。
「触らないで!」
「あ」
俺の手は、キャメルの手によって振り払われた。
「あ、ごめん。でも、気持ち悪いでしょ。こんな身体。助けてくれたことは礼を言うけど、もう私に関わらない方がいいよ」
確かに、不死身である身体は奇異なのかもしれない。
「そうやって、また傷つくのか?」
「傷なんかつかないよ。すぐ、治るんだから」
「お前は、心まで不死身じゃないだろ」
「え?」
尽力は、身体の回復力。傷ついた身体はすぐに治るかもしれないけど、心はそうはいかない。傷ついた心は、そう簡単には癒せない。
そうか。じいさんが言ってたのはこういうことか。Dクラス生は、みんな心に傷を持っているのかもしれない。
それなら、俺も本気の心を伝えないとな。
俺は、剣先をキャメルの胸に当てた。
「コール」
人魔法のレベル3、コール。人の心と心を繋ぐ魔法。名前だけ知ってて、一度も使ったことないけど。てか、レベル3自体初めて使うけど。
俺の心を表した剣を媒介とするなら、繋がってくれるかもしれない。
「一人で背負い込むな。お前のその身体は、気味なんて悪くない。俺を純粋だと言ってくれたその心は、汚くなんかない。俺は、お前の味方だ」
俺は、本心からの言葉を口に出した。
頼む。俺の気持ちが通じてくれ。
「あ、ありがとう」
キャメルの口から、震えた言葉が漏れる。
「ありがとう、シュラ。お願い。私たちを、ソディーを助けて」
「どういうことだよ」
キャメルの緑の瞳から、透明な水滴が零れ落ちた。