第60話 「もう誰も巻き込みたくなかった(キャメル視点)」
この学園では、ソディー以外味方はいないと思ってた。いらないとも思ってた。
「変なやつが入ってきたなあ。確か、王家は強くなるの反対してるはずなのに」
この学校に来る前は、中央エリアに住んでいた。王家の状況も把握している。
おチビちゃんは王子のくせに強くなりたいとかいう変わり者。その上、私たちと友達になりたいとまで言い出している。
「つくづく、変なやつだな」
それでも、顔が笑顔になるのを止めることは出来なかった。
「でも、面白いやつ」
「誰が、面白いやつなんだ?」
今日、結局ソディーは学校を休んでいた。寮に向かう私の周りには誰もいなかった。
さっきまで。
「今日は、俺たちだ。付き合ってくれるだろ?」
目の前の4人の男は、下品な笑みを浮かべている。
見たことないから,Cクラスの生徒かな。
「ま、拒否権なんてないけどな」
1人が、私の腕を取って引っ張る。
折角面白いやつに出会って機嫌良かったのに、やっぱりこうなるのか。
「ほらよ。着いたぜ」
連れてこられたのは、旧道場。普段使われていないのに、何故か残っている謎の建物。こういう時のために、学園が残してるんじゃないのかな。
「さて、始めるか」
「まずは、俺からだ。フィアム・フィッテ!」
無数の炎の玉が私の身体を直撃する。
「うっ」
痛い。それでも、この身体は無言で傷を修復していく。
「やっぱり、気味悪い身体だな」
尽力が無限のこの身体は、生徒たちの練習台として毎日使われる。
いつからだろう。痛み以外の感情が沸き起こらなくなったのは。
いつからだろう。痛みすらどうでもよくなったのは。
「サンテック!」
電気の衝撃が、私の身体を焦がす。
誰も助けてくれない。誰にも助けを求めてはいけない。
これは、私が背負わなくちゃいけないんだ。逃げることは、できない。
「おら! チェール・フィアム!」
「コールド! 大丈夫か、キャメル!」
突然、自分の名前が呼ばれて我に返った。
あいつらじゃない。だれ?
「おチビちゃん?」
目の前に、見覚えのある小さな男の子が立っていた。
何でここに。ここは、あんたみたいな純粋な子が来ていいところじゃない。その真っ直ぐな瞳で、汚れた私の身体を見て欲しくない。
「知らねえのか。その女は、不死身なんだよ」
言わないで。知られたくなかった。この子だけには。私たちと仲間になりたいと言ってくれた純粋な子だけには。
「おチビちゃん。あいつらの言うとおりだから。私は大丈夫だから、気にせず帰って」
頼むから、帰って。ここにいたら、おチビちゃんまで、傷つくことになる。
「どかねえって言ったんだよ。俺の名前は、シュラ・イレーゼル。お前らの相手は、この俺だ」
おチビちゃんは、剣を抜いて構える。
その小さな身体は、私を守るために存在していた。