第58話 「だいぶ、荒療法だよな」
授業の残り時間はあと30分ほど。抜けてきた身としては戻りにくい。
「このまま剣でも振ってるかなあ」
この学校はコの字型の校舎が3つあり、それぞれの中庭は生徒の修行場所になっている。が、今は授業中なので当然誰もいない。
「おや、授業中に修行かの」
「げ。じいさん」
ブラックを振っていると、名前不詳のじいさんが来た。
怒られるかな?
「おぬし、剣が2つあるのに、どうして1本しか抜いてないんじゃ?」
怒られない? てことは、教師ではないのか。
「2本の振り方を知らないから。教えてくれる人もいないし」
「ふむ。おぬし、利き腕どっちじゃ?」
「そりゃ、右だけど」
右だよな? ずっと右で振ってるし。見りゃ分かるじゃん。
「タイト」
「え」
俺の右手が、剣を握りしめる。取れない。魔法か。
「さてと、フィアム」
「うわ」
火の玉を投げてきやがった。避けたけど。何なんだよ、このじいさん。
「何しやがる! 危ないだろ」
「何じゃ、避けたのか。魔法で対抗せんか」
「何言ってんだよ。俺は今剣握ってんだから、魔法出せないだろ」
利き手である右手でしか、魔法出せないんだから。
「ほんとにそうかのう。タイト」
「ん?」
動けない。こいつ、足元にも魔法かけやがった。
「フィアム」
まじか。何、考えてんだ。
「くそ。ウォール」
飛んできた火の玉を、水の玉が相殺する。
「え」
「おやおや。まさか、そっちから出るとは」
今、剣の先から水が出たよね。じいさんも驚いた顔をしている。
「わしも長く生きておるが、武器から魔法を出す奴は初めてじゃのう」
じゃあ、なんで俺は出来たんだよ。もしかして、これが俺だけの能力なのか?
「まあ、結果オーライということにしとくか。わしのカンも衰えたかの」
「おい。なに1人で納得してんだよ。本当は、何がしたかったんだ!」
「剣が2本あるってことは、両利きかと思ったが。違ったんかのう」
両利き?
「ウォール。あ、出た」
左手から、水の玉が生まれる。
俺はずっと右利きだと思ってたけど。
「やっぱり、両利きじゃったんじゃのう。てことは、剣もすぐ扱えるようになるさ。練習すりゃあの」
「じいさん。あんた、何者だよ。剣に詳しいのか」
経験がなきゃ、2本剣があるからって両利きだとは思わない。
本人でさえ、知らなかったのに。師匠だって、何も言わなかったんだ。
「そうだとしたら、どうする?」
「俺に、剣の使い方を教えてくれ」
このじいさんが、何者かは知らないが。もし剣に詳しいなら。
俺は、強くなりたい。そのためなら、名前不詳のじいさんでも何でもいいから力を貸してほしい。
じいさんの口が、弧を描く。何か、妙なこと企んでそう。
「おぬしが、さっきの女の子と仲良くなれたら、教えてやろう」
条件付き?
てか、このじいさん一体どこから俺のことを見てたんだ。キャメルと別れたのは、結構前だぞ。
「そ、そうは言うけど。俺だって、仲良くなりたいけど」
頑張る気ではあるけど、手掛かりが何もない。あっちが、拒絶してくるんだ。どうしろっていうんだよ。
「王子のくせに弱気じゃのう。ヒントをやろう。今日の放課後、旧道場に行ってみなさい」
「は? 旧道場?」
「じゃあの。良い報告を期待しておるぞ」
じいさんは、機嫌良さそうに去って行った。