第53話 「じいさん、あなたは誰ですか」
アンディー先生は、各々鍛錬の日だって言ってたな。てことは、どっかの訓練室にいると思うんだけど。
「一番話し通じそうなのは、ビケルか? ただ、そのビケルがどこにいんのか分かんないんだけどなあ。あ」
適当に校内を歩いていたら、中庭でノックルを見つけた。
「何してんだ? あいつ」
目の前の人物は、ひたすら岩を砕いている。生身の拳で。
「おい。ノックル」
俺が、名前を呼ぶとノックルがこっちを向いた。
「確か、シュラ。お前、それ以上近寄るなよ。命の保証はないぞ」
「は? 何言って」
ノックルの金色の瞳が俺を射抜く。冗談で言っているわけじゃ、なさそうだな。
「何の用だ」
「ノックルのことが知りたくて。仲良くなりたいんだ」
「ふん」
あ? あいつ今、鼻で笑いやがった。
「見た目通り、お子ちゃまみたいだな。俺は、誰とも仲良くする気はない。じゃあな」
「なっ。おい、ちょっと、待てよ」
なんだ、あいつ!
「ほほっ。断られてしまったみたいじゃのう」
「だ、誰だ!」
声のした方を向くと、白髪のじいさんが立っていた。
「誰だよ。あんた」
「人に名前を聞くときは、自分から名乗るものだと、この国を治めるお父上に習わなかったのかの」
何で、俺が国王の息子だと知っているんだ。てか、知ってるなら、名前を聞くなよ。
「シュラ・イレーゼル。それで、あんたは」
「おぬしが名乗ったからと言って、名乗るとは言ってないぞ」
うわ。むかつく。なんなの。今日。むかつくやつにしか会ってない気がする。
「おぬし、あの子と仲良くなりたいんじゃろう?」
「そうだけど」
「なら、その腰に提げている剣は、飾りかの?」
「飾りなんかじゃない。これは、俺の心だ!」
俺の剣心を表した剣は、飾りなんかじゃない。まだろくに操れないけど、俺の心そのものだ。
「分かっておるじゃないか」
じいさんが、少し笑った気がした。
「傷ついた心を持ったやつには、本気の心しか届かんよ。まあ、頑張りなさい」
じいさんは、踵を返して去って行った。
「どういう意味だ?」