第5話 「俺だって力が欲しい」
この5年間、何でも与えられて生きてきた。
それはそれで非日常ではあったが。このまま成長して王様になっても良かったが。
「でも、それじゃ、意味がないじゃないか! って、あれ?」
目が覚めたら、ベッドの上にいた。
俺の部屋だ。相変わらず、無駄に広い。
「お目覚めですか? シュラ様」
「げ。リュン。何でここに」
ベッドの隣に、リュンが座っていた。
茶色い髪をオールバックに仕上げ、色素の薄い瞳は、眼鏡越しにするどくこちらを見ている。
別に厳しいわけではないが、子供だからって優しいわけではない。
仕事人間。それがリュンの印象だった。
「あなたが、勝手に書物庫に入った挙句、法力を放出し尽くして倒れたからですよ」
「うっ。それは、ごめんなさい」
「まあ、あの時本を出したのは私ですが」
「はあ?」
あの時っていうのは、本が落ちてきた時のことか?
「お前、いつから俺のこと見て」
「最初からに決まっているでしょう。あなたのことは、国王様から頼まれているのですから。前も言いましたが、あなたが努力する必要はないのですよ。ここには、なんでも揃っているのですから」
また、あの言葉だ。でも、それじゃあ、意味がないじゃないか。
「俺は、父上の力で与えられたものなんて、使いたくない。俺の力で、手に入れたいんだ。そのために、力が欲しい。魔法でも剣術でもなんでもやってやるさ」
まあ、一番の目的は異世界に来たからには、ってやつなんだけど。それをリュンに言えるわけがないし。
でも、今口に出したことも本当だ。他人に与えられるものなんて、つまらない。
「そこまで覚悟がおありなら。いいでしょう。教えてあげますよ。この世界で生きる方法をね」
眼鏡の奥の瞳が、かすかに笑った気がした。
俺は少しだけ、嫌な予感がしたんだ。
「あ、ちなみに。あなたに魔法や剣術を教えることは国王様や女王様には内緒ですよ。お二方は反対されてるんですから。あなたも私も怒られますからね」
リュンは、取ってつけたように言いやがった。