第46話 「世界の怖さを知りました」
街灯が照らされた中、多くの人で賑わっている。
俺は生まれて初めて城の外に出た。そして生まれて初めて城下街という所に足を踏み入れた。
「人が、いっぱい」
すでに日は落ちているのに、城下街は活気に溢れている。
「あれ、君、どうしたの? 迷子?」
きれいなお姉さんが、俺の目線までかがんできた。
「いや、えっと」
「ん? その顔。君もしかして、王子様?」
「ち、違います! さようなら!」
お姉さんに背中を向けて走る。
ばれたら、城へ返される。絶対、帰ってやるもんか。
「でも、この顔だとやっぱりばれるな。あんまり、人がいない所行かないと」
城下街は一本の主要な道に店などがひしめき合っている。その道を少し外れ、路地に入ると、妙な静けさを保っていた。
「あんまり、良い雰囲気ではないみたいだな」
路地裏には、あまり人はいない。だけど、稀にいる人は、かたぎの人間のようには見えなかった。
「おい。ここは子供が来るような所じゃねーぞ」
「あ、すいません」
目の前に、男性の集団が現れる。何人かの背中には羽が見える。
ヒューマニーだけじゃないのか。
「なあ。そいつもしかして王子様じゃね?」
「はあ? マジで?」
やば。気づかれたか。
「あの、俺はこれで失礼します!」
顔を見られる前に、身を翻そうとした。
「まあ、待てって」
しかし、それは失敗に終わる。リーダー格と思われる男に腕を掴まれた。無理やり、顔を上げさせられる。
「ほう。こりゃ良い顔してんな。王子様じゃなくても、高く売れるぜ」
がちで、やっかいなのに捕まったみたいだな。
「放せよ!」
6歳児の力では、振りほどけない。だけど、油断している今なら、逃げれるかもしれない。
「ウィン!」
手の中で風を起こし、男の手を吹き飛ばした。
「うわっ。何だこいつ。ガキのくせに魔法使えんのか」
「なら、手加減はいらねえな。意識飛ばした方が運びやすいし」
まじ? もしかして、逆効果?
何人いるかは分かんないけど、5人以上はいるよな。剣もないし、そんなにいっぺんに相手出来るわけない。
「くっ。フィアム!」
少しでも隙が出来れば、逃げれるか?
「ウォール・ウィン」
「うわっ」
無理か。俺は特の魔法が使えない。単一の魔法だけで、組み合わせた特の魔法に勝てるわけがない。
「さて、大人しくしてもらおうか」
男が、俺に手を伸ばしてくる。
「くそっ」
俺は怖くなって目をつぶった。
「シュラ!」
俺を呼ぶ声がして、身体に何かが覆いかぶさる。それは、俺を包み込む暖かいものだった。
「え? 父上?」
目の前に、父上がいた。
「まったく、飛び出さないでくださいよ。国王様」
そして、俺を捕まえようとした男たちの前には、リュンと師匠が立っていた。
「うるさい。息子が危ないのに黙って見ていられるか。リュン。シーク。頼んだぞ」
「了解。加減はいらないよな? リュン」
「もちろんだ。シュラ様に危害を加えようとしたんだから。シャドル・コール」
リュンが魔法を繰り出し、師匠が剣で敵をなぎ倒していく。あの2人の戦うところを初めて見たけど。
かっこいい! しかも、強い。2人の周りには、すでに男たちが気絶していた。
「シュラ。無事で良かった」
「あ、ご、ごめんなさい」
怖かった。父上たちが来てくれなかったら、どうなっていたか分からない。
「ごめんなさい、父上!」
俺は、父上の胸に抱きついて、涙を流していた。
「帰ろうか」
父上が優しく、そう呟いた。