第37話 「彼女なんていたことありませんけど、何か?」
俺は、最悪な気分で6歳の誕生日を迎えた。
頭の中は色んなことが渦巻いていて、何から考えればいいのか分からない。
でも、ただ一つ言えることがある。それは。
「やわらかかったなあ」
「うわ。変態」
突然の声に驚いて、部屋の入り口を見る。
「サン! 何で、ここに」
ここ、俺の部屋だよな。
「お前と話しに来たに決まってるだろう」
なんか、昨日と雰囲気が違う? いや、その前に言うことがある。
俺は、床に座って頭を下げた。
「ごめん! 胸触って、ごめん!」
彼女いない歴イコール年齢の俺にとって、女性の胸を触った時の対処法なんて分からない。でも、土下座に勝るものはないだろう。
「ああ。あれは不可抗力だろ。気にしてない」
サンは、顔の前で手を振る。
「良かったあ」
俺は、心底ほっとした。女の恨みが怖いことは、母さんで立証済みだ。
「私の胸なんか触っても、別に価値なんかないしな」
なんか、おかしいと思った。今、私って言った。それに、口調もどこか雑だ。
「なんか、口調」
「気づいたか? あれは、魔法使える多才で穏やかな好少年を気取って、シュラに取り入ろうとしたんだ。普通の王子様だと思ってたからな。でも、まさかお前も転生してるなんて」
「あ! そうだ! 転生。なんだよ。転生って。やっぱり、サンも転生してんの?」
胸を触ったショックが大きすぎてすっかり忘れてた。そうだよ。そもそもサンが転生云々の話しするから、ああいうことになったんだ。
「そうだよ。お父様に、シュラが私に似ているって聞いた時から気になってたんだ。法力の限界がないっていうのが特徴っぽいな。他に、私たちの似ている所があるのかもな」
そういえば、俺も以前誰かに似ているって言われた気がする。
「お父様って?」
「失礼します。シュラ様、ここにサンが来てませんか?」
ノックをしたくせに、返事も聞かずにリュンが入ってきた。
「丁度良かった。シュラ。あれ。お父様」
サンが指す方向には、リュンがいる。後ろには、誰もいない。
「え?」
「やっぱりここだったか。サン。勝手に行くなといっただろ」
「ごめんて。お父様。シュラ。改めて。私の名前は、サン・メナクス。よろしくな」
リュンのフルネームは、リュン・メナクス。
まじで? 親子?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺の声は、城中に響いたと思う。