第35話 「俺だけじゃなかった?」
知っての通り、屋根裏というのは本来人が忍び込む所ではない。暗いうえに狭いし、埃っぽい。この小さい身体だからこそ出来る技だ。
もちろん、俺以外に誰かいるはずもない。
「さて、シュラ様は大人しくしていますかねえ。一段落着けば、様子を見に行けるのですが」
あぶね。俺の名前が出て、思わず声を出しそうになった。
本当に、忙しいんだな。さっきから、色んな人がこの部屋を出たり入ったりしてリュンに指示を仰いでいる。
「リュンの仕事はなんなんだ? ここにいて、指示をすることか?」
「そんな訳ないでしょう」
「え? いった!」
突然聞こえた声に、驚いて顔を上げてしまった。案の定、低い天井に頭をぶつける。
「大きい声出さないでくださいよ。下に聞こえますよ」
出てしまった声に、口を押えて下を見てみる。リュンに気づいた様子は見られない。
良かった。いや、それよりもこの声だ。
「誰か、いるのか?」
頭を低くして周りを見渡す。
「後ろですよ」
声に従って、身体を後ろにひねった。
暗くて見えづらいが、そこには子供の姿があった。
「誰だ?」
「ライツ」
子供の掛け声に合わせて、左手に小さな光が灯る。魔法が使えるのか。
「初めまして。王子様」
目の前の子供は、茶色い髪と瞳を伴った顔を光に照らされ、笑顔でこちらを見ている。
「俺以外に、ここに忍び込むやつがいるとは」
ここ、屋根裏だぞ。
「まさか、僕もここで王子様に会うとは思いませんでした」
俺の素性はばれてるって訳か。
しかし、俺はこの少年を見たことがない。パッと見、俺と同じ年くらいか少し上。誰かの子供か?
「僕の名前は、サン」
「俺は、シュラ。サン。何でここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフですよ。シュラ様。今日は部屋で大人しくしているんじゃなかったんですか?」
なんで、俺の今日の予定を知っているんだ。
というか、その話し方といい、様付けといい。誰かを思い出すんだが。
「その、敬語とか、様付けとか止めてくれないか。俺は、王子様扱いされるのが嫌いなんだ」
「ふふっ。聞いていた通りだね。子供っぽくない子供だって」
俺と同じくらいの子供に言われたくない。
「そっちだって。俺と同じ年くらいなのに魔法使えるなんて。普通じゃない」
「うん。僕、普通じゃないから」
「どういう意味だよ」
まさか、肯定されるとは思わなかった。
「クリア」
サンのバラメーターが目の前に現れる。
「魔法のこと分かるなら、この五角形の意味も分かるでしょ」
サンのバラメーターは俺と同じように歪な形を成していた。
法力が他の力よりも飛び出ている。限界が見えなかった。
「俺と、同じ」
「え。もしかして、君も転生している?」
「は?」
サンの聞き捨てならないセリフは、俺の耳にしっかりと聞こえた。