第33話 「師匠は鋭いな」
剣は、剣心を形にしたもの。俺の剣心を見極め、師匠は剣を造ってくれた。
「これが、俺の剣?」
部屋に入った俺の手に、師匠は2本の剣を乗せた。
両の手に、ずしりとした感覚が残る。
両者とも形はそっくりだ。しかし、色が違う。片方は、青を基調とした剣。もう片方は、黒を基調とした剣だ。
「ああ。それがシュラの剣だ」
「何で、2本なんですか?」
「お前の剣心を見ようとした時、魂というか心みたいなものが2つあるように見えたんだ。何を言っているか分からないかもしれないが」
師匠は、気まずそうにぼさぼさの頭をかく。
いや、分かります。
俺は無意識にそう言いそうになった。
師匠の言っていることは的を得ているのかもしれない。多分、シュラ・イレーゼルとしての俺と、佐藤紡としての俺がいるということなのだろう。
だから、色も瞳を表す青と黒なのかもしれない。
「まあ、そういうわけで2本剣を造っちゃったから、両方使ってくれ」
二刀流ということか? 刀じゃないけど。
ただ、全くの初心者の俺にとって、二刀流はレベル高くないですか。
「師匠も2本ってわけでは」
「ない」
師匠は、俺の言葉の続きを取って、きっぱりと言い放った。
「俺は1本だ。だから、2本の剣の使い方は教えられない。とりあえず、1本での剣術を教えてやる。2本は、自分で頑張ってくれ」
そんな、適当な。
「そういえば、第5エリアの領主は2本の剣を操るとか」
リュンが自信なさげに呟いた。
博識なリュンが、自信なさげに呟くのは珍しい。やっぱり、剣術に関しては専門外なのか。
「ロトさんのことか? そうだったっけなあ」
師匠は、頭をひねらせる。
俺の記憶の中でも、ロトさんは剣を1本しか提げていなかったように思えるけど。
「ああ! そうか」
師匠が明るい顔で手を打った。
「前の領主だ。つまり、ロトさんの父君。その人が確か2本の剣を操ってたはずだ」
「本当ですか! その人は、今何を」
その話が本当なら、その人に二刀流を教えてもらいたい。
「何してんだろうな。第5エリアにはいると思うけど」
第5エリアにいるなら、今は会えないな。
「シュラ様。第5エリアにいるなら、会えませんが」
リュンもやっぱり分かっていたか。その人に会いに行くという理由で、父上が外出を許してくれるはずはない。
「ああ。分かってる。いつか、父上を説得してその人に会いに行ってやる。だから、師匠。基本の剣術を教えてください」
二刀流の前に、基本の剣術は出来るようにならないとな。
「ああ。鍛えてやるよ」
城を出たい理由が増えた。強くなる術を見つけた。
後は、父上を母上を説得するだけだ。だけど、これが一番の難関なんだがな。