第31話 「父上は何を考えているんだ」
別に、父上が苦手なわけではない。
そりゃ、強くならなくていいなんて言う平和主義だけど。それでも、俺を息子として愛してくれているのは分かっている。母上とちゃんと育ててくれているのは分かっている。
「だからな、シュラ。俺はミルに言ったんだよ」
「はあ」
本日の議題、父上と母上のケンカについて。
興味はあるよ。でもさ、今は別のことがしたいわけで。厳密に言うと、早く魔法の練習がしたいわけで。
そうなると、生返事になるのも仕方ないじゃん?
「そしたら、ミルが。でも、シュラが望んでいるじゃないって。どう思う?」
「え?」
あれ? 何の話し?
「だから、お前が弟が欲しいって言っただろ。それでミルがやる気になってな。俺としては、もう少ししてからでいいと思うんだけどな」
いや、言ったよ。確かに、言いましたよ。でも、そんな話し息子にします? しかも5歳児に。
「父上。俺、まだ5歳なんですが」
「あれ。嫌か?」
「いえ。嫌ではないですけど」
「そうか。俺は息子と恋バナするのが夢でな」
なんだ。その乙女みたいな夢は。てか、恋バナって、父上のじゃないかよ。
なんか、色々間違ってる気がしなくもないが、まあ、父上が不審に思ってないなら、応えても大丈夫か。
「あの。確かに弟が欲しいと言いましたが。俺は、父上と母上の仲が良いのが一番嬉しいです。だから、俺の言葉が原因でケンカしないでもらえますか?」
よし。これならそんなに変じゃない。
ケンカする度に、一々愚痴られても困るし。
「シュラ。お前が、そんなことを思っているとは。俺が悪かった。もう、ケンカしないからな」
父上は、笑顔で俺の頭を撫でてきた。
その父親らしい行動を、俺は不覚にも少し嬉しく思ってしまった。