第30話 「あんなやつが王子様とは(ユアン視点)」
第5エリアには、国で一番大きな学校がある。有名な学校であり、至る所から生徒が来るため、住民も多い。そんな混雑する第5エリアをまとめる領主ロト・メイスンは、俺の目から見ても優秀な領主である。
だが、俺は父さんを見習ってまで頑張る気はなかった。三男だから、適当に成長して、家を出てどこかで暮らせばいいと思っていた。
「ユアン。シュラ様はどうだった?」
「いいやつだった」
「王家が嫌いなお前が、そう言うのは珍しいな」
あんなやつが王子様だとは思わなかった。あいつは、勝算もないのに、俺を助けようとした。何の利益もない俺を。
だから、力になりたいと思ったんだ。
「あいつが王様になるなら、俺が領主を継いでもいいんだけどな」
シュラの助けになるためには、領主を継ぐことが一番早い。権力は嫌いだが、シュラが王様なら、悪くない。
実際、兄貴たちを蹴散らして俺が家を継ぐことは不可能ではない。兄貴たちは、権力にしか興味がない。あいつらのどちらかが家を継ぐことを想像しただけで吐き気がする。
「でも」
シュラはおそらく王様にはなりたくないのだろう。あんなに退屈でない日常を望み、強さを求めるやつが、王様に収まるとは思えない。
「父さん。俺はもっと強くなりたい」
それなら、俺自身が強くなるしかない。どんな立場にいるシュラでも、助けになれるように。
「ユアンがやる気になるとは。シュラ様にお礼を言わないとな」
父さんは、皮肉な言葉を投げかけてくる。
父さんには、俺の能力のことしか話してない。兄貴ついでにつけてもらっている修行もばれないように手を抜いていたつもりだが。さすが親だな。ばれていたみたいだ。
シュラの望む、退屈でない日常。それは、適当を望んでいた俺にとっても、魅力的に思えた。