第28話 「初めての気持ちです」
空中庭園があるのは3階。このまま落ちたらやばいな。怪我するどころの騒ぎじゃない。
でも、俺にはどうすることも出来ない。力がない。
俺は、来るべき衝撃に恐れて、思わず目を閉じた。
「おい。おい」
「え?」
しかし、衝撃はいつまでたっても来ない。こんなに高くなかったはずだ。
「いい加減、目を開けろ」
ユアンの声が聞こえる。さっきと同じぶっきらぼうだが、変わらないその態度に何故か安心した。
目を開ける。そこは、地上ではなかった。
「浮いてる?」
「まったく、勇気があるのかないのか分かんないやつだな」
ユアンの背中には、白い羽が生えていた。マントで見えなかったのか。
「もしかして、チキナー?」
「ああ。だから、手を離せっていったんだ」
俺はユアンが助けようとして、手を離さなかった。だけど、ユアンにはどうにか出来る力があったんだな。俺の行為は無駄だったわけだ。
「ほら。着いたぞ」
空中庭園に着地する。
「あ、ごめん。ありがとう」
思いっきり掴んでいた手を離す。
「おい」
ユアンは背中をこちらに向けたまま言葉を発する。ここには俺しかいないから、俺に話しかけているんだよな?
「俺は権力を持ったやつが嫌いだ。権力を持った奴は、自分の利益のためにしか動かない。でもお前は、何の利益もない俺を助けようとした。自分の命を捨ててでも、助けようとした」
一体、何が言いたいのか分からなかった。
「王家を嫌いなのは変わらない。でも、お前のことは認めてやるよ」
「え」
「ほら。いい加減、部屋に帰るぞ。シュラ・イレーゼル」
ユアンは、俺の返事も聞かずに部屋の方へ進んでいく。
俺の方を向かないのは、照れ隠しだったのか。でも俺にとっても、ユアンがこっちを向いてなくて良かった。人に認められることがこんなに嬉しいと思わなかった。どうしても、笑顔が零れてしまう。
「おい。シュラ。早く行くぞ」
「待てよ。ユアン」
部屋に戻るまでに、この緩みきった顔を何とかしないといけないな。