第26話 「だから王子様は嫌なんだ」
バリント国は、中央エリアに城を置き、その周りを5つのエリアに分けている。それぞれのエリアには領主が派遣されている。
5人の領主たちは年に1度、定時報告のために城へと帰ってくる。らしい。
らしいというのは、全てリュンに習ったからだ。
今までは、定時報告に俺が参加する必要はなかった。しかし、5歳になったからと、今年からは参加するように父上に言われていた。
強くならなくていいと言いつつも、そういう国事に関わることはしっかり教えていくつもりのようだ。
「俺にとっては、いい迷惑なんだがな」
「なんか、言ったか? シュラ」
「あ、いいえ。何でもありません」
俺の呟きが父上に聞こえてしまう所だった。
俺が定時報告に参加したからと言って、変化があるわけではない。領主たちは俺に一応の挨拶はしてくるが、目的は父上なのだ。
現に今だって、目の前の領主は父上の方しか見ていない。
「というわけです。カーナ様。今の所、第3エリアに異常はありません」
「うむ。ご苦労だったな。引き続き頼むぞ」
「はい」
第3エリアの領主は、深くお辞儀をして部屋を出て行った。
「父上。後2人ですか?」
「いや。第4エリアの領主は今日来れないらしくてな。後日とのことだ。だから、残りは第5エリアの領主のみ」
父上にばれないように、ほくそ笑む。
こんな面倒くさいこと早く終わらしたい。俺は、父上の跡を継いで王様に収まるつもりなんてないのだから。
「失礼します」
「失礼します」
ドアの方から、2つの声が聞こえた。
「カーナ様、お久しぶりです」
背の高い方が頭を下げる。隣にいる、小さい方も頭を下げた。
2人の恰好は良く似ている。藍色のマントに身を包み、腰には剣を差している。しかし、小さい方は俺より少し高いくらいだ。
「ロト。久しぶりだな。そちらは?」
ということは背の高い方が、第5エリアの領主、ロト・メイスン。切れ長の灰色の目が、父上を優しげな眼差しで見ている。慕っているのだろう。
しかし、隣の小さいやつは本当に良く似ているな。銀色の長い髪を1つに縛っていることまで一緒だ。確か、リュンによると、ロトさんには子供がいたな。ということは。
「俺の末の息子です。今年8歳になります。おい」
「ロト・メイスンが第3子、ユアン・メイスンと申します。以後お見知りおきを」
ユアンは、父上に向かって深々と頭を下げた。
人のことを言える立場ではないが、何とも子供らしからぬ子供だな。
「今年からはシュラ様も参加されると聞いて。年の近いユアンを紹介しておこうかと」
「シュラも挨拶しなさい」
「あ、はい。バリント国第一王子、シュラ・イレーゼルです。よろしくお願いいたします」
「カーナ様に似て、シュラ様も聡明でいらっしゃいますね」
もう少し、子供らしくした方が良かったかな。
「そりゃそうだよ。父さん。だってあの子、賢力と体力が5歳児のものじゃない」
俺は、反射的にユアンの口をふさいだ。
突然、何を言い出すのだ。こいつは。そりゃ、リュンに色々習い始めて賢力もそれなりに上がったさ。でも、それを何でこいつが知っているんだ。
「どうした? シュラ」
父上とロトさんが不思議そうに俺の方を見る。
父上の方には確実に聞こえてないな。問題はロトさんだ。でも、この表情を見ると、何のことか分かっていないのか?
それよりも、こいつと話しをつける方が先だ。
「い、いえ。父上。俺、ユアンに城を案内してきてもよろしいでしょうか?」
「ああ。いいぞ。ロト、いいよな」
「ええ。シュラ様、ユアンのことよろしくお願いします」
俺は、2人の返事を聞きながら、ユアンの手を引いて部屋を飛び出した。