第16話 「俺はこれでも5歳」
「だとよ。リュン。いいのか?」
シークは、笑顔のまま、真反対の表情をしているリュンを見る。
そういえば、リュンは師匠に頼むのを渋ってたな。
「シュラ様がいいなら、しょうがないが。シュラ様、こいつは本当にクズですよ」
「おいおい。ひどい言い草だな」
「そりゃそうだよ。軍隊長のくせに仕事中も酒ばっかり飲んでくびになったなんて、前代未聞だ」
まさかとは思っていたが。問題となった癖っていうのは、酒だったのか。
「別に酔って勤務に就いてたわけではないだろう。ミッヘルが大げさにしすぎなんだよ」
師匠に悪びれる様子は全く見られない。
この様子だと、ミッヘルのことも別に恨んでないな。
「当たり前だよ。全く。シュラ様、本当にいいんですか?」
俺の決定に、迷いはない。
「ああ。師匠に剣術を習いたい」
「それなら、しょうがないですね。シーク。シュラ様をよろしく頼む」
ここ数日の修行で分かったことだが、リュンは何だかんだ言って、俺には甘い。
「あ、それと。国王様と女王様には内緒にしろよ。シュラ様を鍛えることには、反対されているんだからな」
「はっ。あいつらは、平和ボケしすぎだからな。今は世界は平和だが、いつこの均衡が崩れるか分からないのに」
「お前な、シュラ様の前で」
「いえ。俺もそう思います」
シークは、父上と母上のことをよく思ってないのか。
そりゃそうか。力を持つことにあまり関心がないということは、軍隊にも関心がないということ。元軍隊長としてみれば、歯がゆいのかもしれない。
「俺も、父上や母上の考え方には反対です。だから、力を手に入れたい。強くなりたい」
「リュン。お前、どんな教育してんだ?」
シークが、驚いた表情でリュンを見る。
「私は何もしてない」
リュンは、瞳は厳しく俺を見ている。
どうせ、変な子だとでも思ってるんだろう。ちょっとは、5歳児っぽくした方が良かったのか?
「なるほどな。リュンがシュラに甘い理由が分かった」
シークは、皮肉な笑みを浮かべる。
「シュラ。よろしくな」
まあ、シークに教えてもらえるし、俺はこれでいいか。