第15話 「酒好きに悪い奴はいないって誰かが言ってた」
なんで、大人っていうのはお酒が好きなんだろうなあ。
部屋の床に散らばる酒の空きビン。充満する匂い。
「うっ」
俺は思わず顔をしかめた。
別に酒の匂いに耐性がないわけではない。俺の本当の父さんも結構飲む人だ。
だけど。だけど。
「さすがに、これはなあ」
目の前の人物は、これだけ飲んでいたにも関わらず、しらふを保っている。
「シーク。今日は、シュラ様を連れてくるから飲むなってあんなに言っただろ」
「俺に飲むなって言う方が無理だろ。そいつが、シュラ・イレーゼルか?」
「お前! シュラ様のことを」
シークが、リュンの諌める声をかわし、俺の前に立つ。
ぼさぼさの黒い髪を無造作にてっぺんで纏めた風貌には、清潔感は感じられず。
髪と同じ色の瞳には、真剣な色は映っていない。
一目で分かる。
こいつは俺のことを王子様だからといって、敬おうとは思っていない。
「初めまして。バリント国第一王子、シュラ・イレーゼルです。よろしくお願いします」
シークが一瞬驚いた表情をする。
俺だって、王子様として扱ってもらおうとは思ってないさ。
「気に入った」
シークが、ニヤリと笑った。
「俺は、バリント国専属刀鍛冶、シーク・シュナイザー。シュラ・イレーゼル。お前の望みは?」
この人なら、俺の望みが叶うかもしれない。
「俺に剣術を教えてください。師匠」
師匠は、笑みを深める。
「いいだろう」
俺は、この人に付いて行くことを決めた。