第129話 ユアンの事情
ユアンは第5領主メイスン家の三男に生まれた。権力が嫌いなユアンは、家のことは兄に任せ、好きに生きようと思っていた。そしてシュラに出会ってからは、シュラと生きることが目標になっていた。
「ユアン!」
家を出たユアンに追いついたサンは、ユアンが立っている墓の前に立つ。
「これ、母さんの墓なんだ」
「ユアンのお母さん…」
「俺の小さい時に死んだから、顔は覚えていないけどな。俺さ、理由は分からないけど昔から権力が嫌いで。だから俺の家も嫌いで。いつか家を出るつもりだった。三男だしな。でも、第5エリアを離れるつもりはなかったんだ」
「お母さんのお墓があるからか?」
ユアンはかすかに頷いた。
「転生とか魔王とか、まだ事情はよく分からないけど。父さんがあそこまで真剣に話すってことは、魔王を倒すっていうのがシュラとサンの使命なんだろう? そして、その仲間はまだいる」
ユアンは、混乱しながらも全員が発した言葉を聞き逃していなかった。
魔王を倒す仲間。それが父親を示す言葉だとしたら、シュラとサンも同じ使命を背負っている。そして、父親が4番目と言ったからには、仲間は少なくともあと1人いるということになる。
「そうだよ。私とシュラは魔王を倒すためにこの世界に生まれ変わったんだ。生まれ変わる前の記憶を持ったまま。それが、転生。もしユアンが仲間になってくれるなら、確実にこの地を離れることになる」
あと2人の仲間はどこにいるか分からないが、世界はまだ広い。
「ああ。俺はシュラと友だちになった時に、シュラの助けになりたいと思った。その気持ちは変わっていない。でも……」
ユアンは母親の墓を見つめる。
家をいつか出ることを理解していても、母親の墓から離れる気はなかった。
「私はこの世界で大切なものを守りたい。だから、使命を受け入れた」
「大切なもの?」
「ああ。両親。国王様。友だち。シュラ。そして、ユアン。お前も守るよ」
「……バカ」
「は?」
ユアンがバツの悪そうな顔でサンの方を見る。
「女に守られてたまるかよ。俺だって、大切なものを守りたい。その力が俺にあるのなら」
「ユアン。じゃあ…」
「ああ。俺に、お前を守らせてくれ」
ユアンの笑顔と共に言葉を聞いて、サンは一瞬で顔を真っ赤に染めた。その意味をユアンは素早く理解した。
「バカ! ち、違うからな! 今のは、ただの…」
「わ、分かってるよ! いいから、こっち見るな!」
サンが顔を隠そうとするのを、ユアンは必死に留める。
「サン! ごめんて!」
「うるさい! ユアンのバカ!」
「サン! ユアン!」
騒いでいる2人を疑問に思いながら、ロトとの話しを終えたシュラは2人に合流した。
仲間になった3人を、夕日がオレンジ色に染めた。
転生初期からイージーモード・少年期はこの話しで終わりです!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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