第128話 ロトの事情
第5エリアは、代々メイスン家が領主をしている。ロトも35歳の時、父親であるリーンから家督を継いだ。
「さて、ユアンはちゃんと2人を連れてくるかな」
現在、長男は20歳。次男は13歳。三男であるユアンは9歳。まだまだ跡継ぎを考えるのは早い。しかし、ロトは家督の問題以外にも1つ大きな問題を抱えていた。
「ただいまー。父さん?」
「ユアン。お帰り」
ユアンがロトの部屋に入る。ユアンの後ろに続く2つの影に、ロトは安堵の笑みを浮かべた。
「お久しぶりです、シュラ様。初めまして、サン・メナクス」
「ロトさん。久しぶりです」
「えーと、初めまして」
サンは、初めてみたユアンの父親に緊張の表情を浮かべた。
「突然お呼びしてすみません」
「それはいいですけど。あの、敬語と様付けをやめてもらえませんか…?」
ロトが領主で王子であるシュラより身分が低いとしても、シュラにとっては年上であり、友人の父親だ。
「そういうわけにはいかないんですよ、シュラ様」
ロトもユアンからある程度はシュラのことを聞いている。だが、さすがに領主である自分が世間体を気にしないわけにもいかないのだ。
「分かりました」
シュラは事情を察し、ため息を吐いた。
「あの。なんで私も呼ばれたのでしょう?」
シュラだけが呼び出されたのなら、王室関連だと分かる。だが、サンは執事の娘なだけで、何にも関係はない。
「あなたも関係があるからですよ」
シュラとサンが顔を見合わせる。シュラとサンが関係があるといったら、王室関係を除くと1つしかない。
「父さん。俺はいてもいいんですか?」
自分の立場を察する聡明な息子に、ロトは笑みを浮かべた。
「ああ。お前にも聞いてもらいたい」
「はあ?」
ハテナマークを一様に浮かべる子供たちを見て、ロトは嬉しそうに笑った。人の困り顔を見て笑うその仕草は、確実にリーンの血をひいていた。
「さて、シュラ様。そしてサン・メナクス。神様の子どもにはもう会いましたか?」
「え!」
神様の子どもという単語に、シュラとサンは声をあげた。
「ロトさんって、もしかして…」
シュラの言葉の続きを聞く前に、ロトは頷いた。
「俺も転生しています。神様の4番目の子、キャトルによって転生しました」
「なら、魔王と戦う仲間は…」
サンの言葉の続きを聞く前に、ロトは首を横に振った。
「俺はもう年ですから。その代り、ユアンを預けます」
「はっ?!」
突然名前が挙がったユアンが、大声を出す。
「どういうこと、父さん。転生ってなんだよ! しかも魔王って」
「ユアン。今から言うことは大事なことだ。シュラ様もサンもよく聞いてくださいね」
ロトの真剣な顔に、3人は唾を飲み込む。
「俺を転生させたキャトルはバカなんです。本当はシュラ様やサンと同時期になるように転生させなければいけなかった。魔王復活の時期に転生者の絶頂期を合わせるためです。しかし、神様の話しを聞かずに俺を転生させてしまった。そこで神様はチャンスを与えました。俺から誰か1人に転生者としての権利を与えることができる。だから、俺はユアンにその権利をあげようと思いました」
思った以上に軽い内情に、シュラは呆れた顔をする。
「魔王や転生については後でシュラ様に聞きなさい。ユアン、引き受けてくれるか?」
「父さん。少しだけ、時間をください」
ユアンは、ロトの返事を聞かずに部屋から出て行った。
「ユアン!」
サンはユアンが出て行った方を向く。
「シュラ……」
「サン。お前、行ってくれるか? 俺はまだ、ロトさんに聞きたいことがある」
「あ、ああ」
シュラに背中を押されたサンは、ユアンを追いかけて部屋を出て行った。
「さて、ロトさん。まだ話していないことがありますよね?」
「相変わらず、聡明でいらっしゃいますね」
ロトは嬉しそうに笑った。