第126話 ホセの事情
第1回クラス対抗大合戦が終わり、クラスの区切りがなくなった後、ホセは魔法と学術の授業しかとらなかった。
「ホセ君。剣術は取らないの?」
「サックス。なぜ、あなたがここに?」
夜。いつものように屋上で星を見ていたホセの元に、サックスが笑って現れた。
「君に聞きたいことがあってね」
「何ですか?」
ホセは分かりやすく警戒心を露わにする。それは前回敵だったかたという理由だけではない。
「だから、剣術取らないの?」
「そんなことを聞きにわざわざここへ?」
ホセは思わず本を開いた。しかし、そこにサックスの心は映されない。
「もう1つ。君、僕に聞きたいことがあるんじゃないの?」
「それはもう、あなたには分かっているんじゃないですか?」
「ああ。そうだね。君も、入っておいでよ」
サックスが屋上の入り口に向けた声に従って、ホセもそちらを向く。
「カディー!」
屋上に入ってきたのは、ソディーとよく似た女の子だった。
「何で、ここに?」
サックスに疑問の目を向けたホセに、サックスはいたずらっ子のような笑顔で返す。
「僕が何で、賢者級の魔法を使えるのか。気になっていたんだろう?」
「そうですが…」
ホセは第一回クラス対抗大合戦が終わってからカディーとは話していない。森で告白まがいの話しをして以来だ。
「まあ、2人ともそんなに緊張しないで。実はね、僕はホセ君のおかげで賢者級の魔法が使えるんだ?」
「は?」
「特魔法エマージ・シャドル。人の使った魔法を1回コピーできる魔法だよ。ホセ君が法術の試合の時賢者級を使ってくれたから、僕も試合で使えたんだ」
「なら、賢者に会ったってわけではない?」
「うん。まあ、君が僕の心を読むごとに、僕もその魔法が使えるから。僕にとっての賢者は君だけどね」
「それで、何でカディーはここに」
サックスの秘密にカディーが絡んでいると思っていたけど、関係がないならいる必要はない。
「ホセ君にはそのことでお世話になったからお礼をしようと思って。ちゃんと2人で話していないんだろう? ホセ君。こういうのは男性の方からアプローチしないと駄目じゃないか」
「あなたには、関係ない…!」
「ま、後はごゆっくり」
サックスは笑顔を浮かべたまま屋上から出て行った。2人の間に気まずい空気が流れる。
『ホセ君』
先に口を開いたのはカディーだった。
『ホセ君。ごめんね。いっぱい傷つけてごめんね』
ホセは本を閉じてカディーと向き合う。
「カディー。僕の夢を覚えていますか?」
『え?』
「昔、話したでしょう?」
『魔法博士になること?』
「そうです。その夢は今も変わっていません。全ての魔法が使えるようになって、カディーが賢者にかけられた魔法も解いてみせます。だから、僕はあなたのそばにいたい」
『うん。うん…!』
昔のように。これからも一緒に。それが2人が出した答えだった。