第123話 「長いようで短かった」
ラルクの実力は、サックスも認めている。あっちに魔法玉があるのは間違いないだろう。ただ、ラルクを置いてきてしまったな。よく考えれば、隠れている可能性の方が高いな。
「一体、どこに……」
周りを見渡しながら走るが、それらしきものは見えない。
「シュラ!」
「ユアン」
目の前にユアンが現れる。
あぶなっ。声をかけてくれなきゃ、ぶつかるところだった。ユアンっていうことは、隣にいるのはAクラスのパートナーか。
「シュラ君。先に行かないでよ」
後ろから、サックスたちが追い付いてきた。
「あ、カークいた!」
ユアンの後ろから、ディックが姿を現す。隣には、ミュートがいる。この2人、一緒にいたのか。
で、魔法玉はどこにあるんだよ。時間が、ない。
「シュラ。そんなに見つめられても、俺が魔法玉の場所を言うわけないでしょう」
「ビケル! 探すぞ。時間がない」
「待てよ。時間がないのは、俺たちも一緒だぜ。なあ、カーク!」
カディーが小さく頷く。
「あれ? なによ。人がいっぱいいると思ったら。あんたたち、一緒にいたの?」
「ケイト……」
何で、ここに。終了10分前に全クラスが一か所に集まるってどういう状況だよ。
いや、今はそんなことにかまっている場合じゃない。俺たちは今、負けているんだ。ここで、魔法玉を取らないと認めてもらえない。
「ほんとに?」
「え?」
誰が、声を発したのか分からなかった。
「本当に、まだ認めてもらえてないと思ってる?」
「どういうことだよ。サックス」
こいつが今さら心を読もうが驚かない。どういう原理か知らないが、ホセと同じ能力を持っているのだろう。
「僕たちはもう、Dクラスを認めてるよ。ねえ、ディック。ユアン。ケイト。ラルク」
全総長を見渡す。頷く者はユアンしかいなかったが、否定の言葉は発せられない。
え……。じゃあ…。
「なんじゃ? 和解かの? なら、この魔法玉はいらんのかの」
「じいさん!」
「祖父ちゃん!」
今、どっから現れたんだ。いつの間にか、俺たちの真ん中に立っている。そして、じいさんの手の中には魔法玉があった。
「じいさん、それ!」
全員がじいさんに向かって動き出そうとした。
「あれ?」
動かない? 魔法?
周りを見ると、真っ先に飛び出そうとしたディックもケイトもミュートもおかしな格好で驚いている。
「悪いけど。その魔法玉は僕にくれないかい?」
聞き覚えのある穏やかな声だけが、余裕を見せていた。ということは、このおかしな魔法をかけたのは。
「お前か。サックス」
ディックがサックスを睨む。確かに、サックスだけは余裕そうにじいさんに近寄っている。
ちょっと待てよ。これが魔法ならビケルはかからないんじゃ。
「ビケル! お前なら……」
「無理だよ。シュラ。サックスの方が、一枚上手だ」
いつの間にか、ビケルが倒れて手を挙げている。その足からは血が流れていた。
「お、おい! 大丈夫か?」
「ああ。痛みはそれほどじゃないけどな。立てない」
この短時間に、ビケルに怪我を負わせて、俺たち全員に魔法をかけたってことか。ていうことは、さっきの話しも俺たちを油断させるために。
「どういうことだ! サックス!」
「そんなに怒らないでよ。悪いようにはしないからさ」
全員の怒気をはらんだ視線をものともせず、サックスは微笑んだ。
「ほう? 何を考えておるんじゃ? サックス」
「それはおそらく、あなたと一緒ですよ。理事長」
サックスが魔法玉に触れる。
『特Sクラス、100ポイントゲット! そしてタイムアップ! サバイバル終了! みなさん、お疲れ様でした』
ビケル、ノックル、ホセ、キャメル、ソディー、ごめん。