第122話 「その前髪は命令ですか?」
「造られてる、だと?」
意味が分からない。ラルクが造られてるってどういうことだ。
人間を造るなんて、聞いたことがないし。あっちゃいけないことだろ。いや、でも神様がいるくらいだから、そういうこともあり得るのか?
「何を勘違いしているのか知らないけど、そうしつけられてるってことだからね」
サックスが、苦笑しながら俺の思考に答えを出す。
「しつけられてる?」
「そう。古い慣習だけど、僕の家とラルク君の家は主従関係にあってね。アンブレ家はアリスト家と同じ年に子どもを産み、その子どもは同じ年に生まれたアリスト家の子どもに従うように育てられる。ラルク君にとって、僕の命令は親のものよりも絶対なんだ。ねえ、ラルク君」
「ええ。俺の命は、サックスさんのものですから」
慣習と言われたら反論の仕様がないけど、それが異常っていうのは俺にも理解できる。だって、サックスがラルクに死ねって言ったら、ラルクは死ぬんだろう。
「僕は、こんな慣習嫌いだから。普段は別に命令なんてしないんだけどね」
さっき軽々と命令していたくせに。
「ちょっと待てよ。それならこの戦いすごい有利じゃないか? ラルクはサックスの味方をするんだろう?」
ビケルが恐る恐る呟いた。
確かに。それじゃあ、特Sは二倍の人数で戦っているようなものだ。
「勘違い、するな。Cクラスが、特Sの、味方、というわけ、じゃない」
ラルクのパートナーが睨んでくる。俺が言ったわけじゃないじゃん。
「俺は確かにサックスさんの命令には従いますが、それは命令された時だけです。命令もされてないのに味方をするのは、アンブレ家の家訓に反しますから」
てことは、なんだ? サックスが命令をしない限り、ラルクはサックスに魔法玉を渡さないってことか。まあそれならずるくない、のか?
「納得した? シュラ君」
「あ、ああ」
『おっと! Aクラス30ポイントゲット。優勝争いに食い込んできました。ここで残り時間10分。まだ100ポイントは見つかっていません。果たして、どのクラスが勝つのでしょうか』
やばい。時間がないな。これまでの競技の蓄積があるとはいえ、まだDクラスはポイントを取っていない。
「やばいね。そろそろ本気にならないと」
「そうですね。………!」
ラルクがいきなり右方向へと顔を向ける。そこには森が広がっているだけだが、あいつの目には何が見えているんだ?
「ラルク。どうしたんだ?」
「………」
「ラルク君。言いなよ」
「……」
主であるはずのサックスの言葉にすら、反応するのをためらっている。
「ラルク君?」
「…あっちに魔法玉が。おそらく、100ポイントかと」
俺とカディ、そしてラルクのパートナーは、ラルクの言葉を聞いた瞬間に駈け出した。