第120話 「結局は俺次第なのかな(ビケル視点)」
「あーあ。何で、ビケル君なんだろうね」
サックスの第一声がそれだった。
「悪かったな。カークじゃなくて」
「いや。君以外なら誰でも良かったよ。僕の魔法なら、魔法書の中身を見ることが出来るのに」
カークとシュラが何かをやらかしているのは、レンの放送から分かった。だけど、森の中には映像を映すものがないから声しか聞こえてこない。
ダミーの魔法玉によって散り散りになったせいで、サックスと行動することになったっていうのに。別に好きでこいつといるわけではないのに。
『王子様! 僕の魔法書を持って行っているでしょう? それでカディの心を見してください!』
「ホセ?」
「あれ? ホセ君。目を覚ましたのか。良かったね、ビケル君」
「ん。あ、ああ」
ホセが目を覚まさないことはシュラから聞いていた。良かった。目を覚ましてくれて。
「ねえ。前から聞きたかったんだけど。何で、君、Dクラスに入ったの? 自分から希望したんでしょ?」
この学校でクラスを希望する生徒は珍しくない。ただ上のクラスを希望しても、結局は実力通りのクラスに入れられるだけだが。
しかし、Dクラスを希望する生徒は珍しい。というか、多分俺が初めて。サックスが知っていてもおかしくはないか。
「仲間が、欲しかったから」
「は?」
サックスは見たことない程、変な顔をした。
「俺は、こんな能力だから誰も近寄って来なくて。でも、落ちこぼれって言われているDクラスなら、そんなの気にしないんじゃないかって思って」
魔法っていうのは、法力があれば誰でも使えるようになる。だから、日常生活のあちらこちらで役に立っている。洗濯1つするにしても、然魔法が使えればあっという間だ。
でも、俺は生まれつき魔法が使えなかった。それだけじゃない。周りの魔法を無効化にする能力を持って生まれてしまった。そんな俺を親さえも見限り、俺は独りぼっちになったんだ。
「君、バカなんじゃないの?」
サックスの言葉が、心に突き刺さる。
そんなこと分かってるよ。ノックルたちが、最初に仲間になってくれなかった時から。
「ああ、違うね。そうじゃない。君、バカにしか囲まれてこなかったんでしょ。だから、君もバカなんだ」
「なっ。どういう意味だよ」
サックスの言っている言葉の1つ1つが俺の心を締め付ける。だけど、真意が見えない。
「俺は、誰からも必要とされてこなかった。現に、サックスもさっき俺のことが邪魔だって」
「僕は、君の能力が邪魔だとは思ったけど。君自身を邪魔だと思ったわけじゃないよ」
それは、屁理屈っていうんじゃないのか?
「だって、みんな俺なんかいなければって。魔法が楽に使えるのにって」
「だから、バカなんだよ。そんなやつらこっちから切り捨てればいい。無理して仲間を作ろうとしなくても、君が君の能力を活かせる場所っていうのは必ずあるはずなんだ。現に、シュラ君は君を受け入れたんだろう? この世界がどれだけ広いと思ってるの?」
そうだ。シュラは、俺の能力を知った上で仲間になってくれた。初めて、俺を肯定してくれた。
「バカな君でも、僕の言葉に理解できた?」
サックスは、皮肉そうな笑みを浮かべる。
言い方は辛口だけど、案外こいつはいいやつなのかもしれない。
「ああ。ありがとう、サックス」
「君に礼を言われる理由はないよ。じゃあ、行こうか」
サックスは踵を返して、さっさと前を歩いて行ってしまった。
俺は、魔法を無効化にする能力を持って生まれてしまった。この能力は、誰かに迷惑をかけるものだとばかり思っていたけど。でも、シュラたちはこの能力を受け入れてくれたんだ。それなら、俺も自分の能力を受け入れないといけないな。
「ビケル君。来ないの?」
前方からサックスが呼んでくる。敵同士とはいえ、パートナーと別れた今、ここでもバラバラになるのは良策ではない。
俺は、急いでサックスの元まで走って行った。