第119話 「それが本当の気持ちなんだな」
「カディー・ヤンク?」
って言ったら、ソディーの姉? ホセの幼馴染? 能力を全て失って消えたっていう。
「カディー・ヤンク!」
え? まじで? カディーなの?
『何回、名前を呼ぶの』
カディーは、面を取ったからといって、表情は無表情から変わらない。
「ちょっと待てよ。ホセに聞いたけど。お前、賢者に能力を取られて消えたって。何で、ここにいるんだよ」
『それ、話さないとダメ?』
「当たり前だろ!」
何で、そこめんどくさそうなんだよ。ソディーとは、性格が全然違うな。ホセは、こいつが好きだったのか?
『だって、もうばれたってことはホセ君にも話さなきゃいけなくなるんでしょう? 一度で済ませたい』
そりゃ、そうだけど。ホセは、まだ目を覚ましてないよな?
『えー。シュラ・イレーゼル。聞こえていますか? カークの正体が明らかになって、こっちも戸惑っているのですが。カークの声が一切聞こえないけど、どうなってます?』
「あ、ああ。カークは、話せないから魔法で俺の頭に直接話しかけているんだ」
『そうですか。カーク、その魔法は僕たちにも届きませんか? こっちも状況が知りたいのですが。ソディー・ヤンクも騒いでますが』
ソディーも事情を知っている。実の姉が突然現れて、驚かない方がどうかしている。
『無理』
カディーの短い解答が、頭の中に響いた。
「レン。無理だとよ」
『王子様! 僕の魔法書を持って行っているでしょう? それでカディの心を見してください!』
「え? ホセ?」
今のは、明らかにホセの声だ。俺を王子様と呼ぶのもあいつしかいない。
「お前、目を覚ましたのか?」
『ええ。何とか。カディー。聞こえていますか? 僕はここにいます。あなたの言葉を、全てを教えてください…』
ホセの言葉は、最後の方が消え入りそうだった。
いきなり殺されそうになって。目が覚めたら、その相手が探していた幼馴染だったなんて。どこの昼ドラだよ。
「カディー。ホセも聞いている。話せよ?」
カディーは、ホセの声を聞いて初めて表情を崩した。それは、泣きそうでもあり、嬉しそうでもあった。
『分かった』
カディーの言葉を聞いて、俺はホセの魔法書を開く。そこには、文字が自動で重ねられていく。
『君がホセ君から聞いた通り、私は賢者に全ての能力を奪われて地元へと帰った。私がいたら、ホセ君が罪悪感を感じると思ったし。それに、何の役にも立たない私なんか、いらないと思ったから』
いなくても、ホセは罪悪感を感じているけどな。
「もしかして、話せないのも?」
『うん。話す能力も奪われた。生きるのに必要な、視力や聴力は奪われなかったけど』
賢者も結構ひどいな。
「全ての能力を奪われたのに、魔法は使えるのか?」
『魔法が使えるようになったのは、もう一度、賢者に出会ったから。奪った能力を返すことは出来ない。だけど、人魔法の賢者だから、人魔法の能力だけは授けることが出来るって』
「それで、学校に戻ってきたのか?」
『うん。戻ってきたのは、ついこの間。人魔法だけでも戻してもらったから、ホセ君に必要としてもらえると思って。でもその時には、ホセ君には君たち仲間がいて。私なんか、もういらないんだって思って。そう思ったら、我慢できなくなって』
「ホセを傷つけてしまったと?」
カディーは、無言でうなずく。泣いてこそいないものの、その顔は後悔でいっぱいだった。
『カディー! 僕は、あなたのことをいらないなんて思ったことありません! ずっと、探していたんですよ。賢者級の魔法なんかなくても、何の能力がなくても、あなたがいてくれればそれでいいんです!』
ホセ、気付いてるのかな。告白まがいのことをしてるけど。
ほら、カディーもちょっと気付いちゃってるよ。無表情に戻っているけど、その白い肌が少し赤く染まっている。
『ごめん。ごめんね。ホセ君』
その言葉に、全てがこもっているような気がした。
突然、消えたこと。ホセを傷つけてしまったこと。カディーが悔やんでいるなら、この2人に必要なのは、もう時間だけだろう。
あとは、2人次第だな。