第12話 「こういうのを待ってました」
「師匠。何からするんですか?」
「なんですか? その呼び方と気色悪い敬語は」
こいつ俺の敬語を気色悪いって言いやがった。
「教えてもらうからには、敬意を示そうと思って。師匠って呼びたかったし」
「いりません。今まで通りで大丈夫です。私は、あくまで執事の立場ですから」
俺は、誰かを師匠と呼ぶのが夢だった。すごく、修行してるっぽいからだ。なのに、それを早々に断ち切られてしまった。
「では、今日の修行を始めますよ。まずは、魔法のことからですかね」
俺の悲しげな表情を物ともせずに、リュンは先へ進める。
「魔法には、5つの属性があります」
「5つの属性?」
「自然を操る、然。無機物を操る、無。人を操る、人。生物を生み出す、生。2つ以上の魔法を組み合わせる、特」
リュンは、黒板に5つの文字を書いていく。
「実演した方が早いですかね。イレース」
リュンが発した瞬間、黒板が消えた。
「え? 今のは」
「今のは、無の魔法です。そして、フィアム」
リュンの手の中に、炎が浮かぶ。
「これは、然の魔法。それぞれの魔法に種類はたくさんあります。まあ、今見せたのは基本中の基本ですかね」
なるほど。何となく分かってきた。
「特の魔法は?」
「そうですね。これは各々が作り出すものですが。例えば、ウォール・チェンサー」
「うおっ」
俺の座っていた椅子が、水へと変わる。当然、水たまりの上に尻餅をついた。
「何してんだよ!」
「今のは、然と無を組み合わせて、椅子を水に変えました」
「説明する前に、謝れ!」
「すいません」
絶対、悪いと思ってないな。あーあ、濡れちゃったよ。
「フィアム」
リュンの呪文を共に、俺のズボンが暖かくなる。一瞬の内に、乾いた。
「これで、大丈夫でしょう」
「あ、ああ。ありがとう」
「もう1つ、大切なことがあります。魔法には、必ず1つだけ使えない属性というものが存在します。私の場合は、生です」
使えない、と来たか。
「それは、どうやったら分かるんだ?」
「これで調べます。ネイト」
リュンの手の中に、青い光の玉が浮かんでいた。