第116話 「3日目ですってよ」
『さあ! 第1回クラス対抗大合戦最終競技、サバイバル! ルールの説明をさせていただきましょう。舞台は、旧校舎の裏にある森。そこで、争ってもらうものはポイントが入った魔法玉です。10ポイント、20ポイント、30ポイント、100ポイントそれぞれのポイントが入った魔法玉が森のあちこちに散らばっています。魔法玉は触れた途端、その人の得点になります。最終的に、ポイントが高いクラスが勝ちです。それでは、あちらでスタンバイしているみなさんの様子を見てみましょうか』
グランドでしゃべっているレンの声は、森の入り口で準備している俺たちの耳にも届いていた。
今日は、ここに集合と言われてそのまま来たのだが、そういうルールだったわけね。
「レン。質問。その魔法玉はいくつあるわけ?」
『いい質問ですね! ディック。いくつあるのかは、僕も知りません!』
レンの満面の笑みが頭に浮かぶ。おそらく、イラッとしたのは俺だけではないだろう。
「ディックのバカが何も考えずに言葉を発したけど、こっちの声は聞こえているってわけね」
『ええ。姿も声も、こちらのモニターで放送されてますよ』
ケイトは相変わらず、流れるようにディックをバカにしている。レンはそのことについては触れないが、姿も見えているんなら分かっているんだろうな。ディックが、ケイトだけでなくグランドの方にも怒りの目を向けていることに。
『さて! 質問は、以上ですか? 制限時間は1時間。それでは、スタート!』
レンの言葉を合図に、各クラス2人、計12人が森の中に入って行った。
「シュラ。俺たちも行くか?」
「そうだな」
森の入り口にいるのは、すでに俺たちだけだ。
「なあ、ビケル。この森は、何なの?」
「何なのって。普通の森だけど」
俺の感覚的に、普通学校に森は存在しない。だけど、今目の前にある森は、入り口は見えても出口は見えない。木が生い茂り、中の様子も全く見えない。先に入った他のクラスのやつらの姿もすでに消えている。
旧校舎には来たことあるけど、こんな森があるなんて知らなかった。まさか、このために造ったとかはないよな。
「何を心配してるのかしらないけど、普通の森だぞ。行かないのか、シュラ」
「いや、行くか」
分からないことを、どれだけ考えても分かんないな。
俺とビケルは、ようやく森へと足を踏み入れた。
森の中は、意外にも太陽の光が差し込み、暖かい。
「やっと入ってきたね」
「サックス」
先に入ったはずの特Sの2人が、まだ入り口のところにいた。
「君たちを待っていたんだよ。シュラ君、ビケル君」
サックスにそんなこと言われても、疑念しか浮かばない。
「なんだよ」
「君たち、カークを倒したいんだよね。僕たちと協力しないか?」
「協力?」
倒したいのは事実だけど、協力ってどういうことだよ。
「そう。僕たちもカークとは戦いたい」
「ちょっと。戦いたいのはあんただけでしょ。早く、魔法玉探しに行くわよ」
どうやら、もう1人の女はサックスの提案に賛成しているわけではないらしい。
「もう少し待ってくれよ。ミュート。カーク以外の獲物は、君にあげるから」
ミュートは、サックスの制止を無視して奥に進んでいく。
なんなんだ、あいつらは。
「どうする? シュラ」
「そうだな、とりあえず、目当てがあるわけじゃないし。俺たちも奥へ行くしかないだろ」
あいつらの後に付いて行くっていうのは不本意だけど。協力の内容も気になるし。
「でね、シュラ君。協力なんだけど」
俺たちがついてくることに安心したサックスは、先頭をミュートに預け、話しかけてくる。
勝負のはずなのに、特SとDが一緒に森を歩いているっていうのも、変な光景だよな。見ているやつらは、どう思っているんだろう。
「カークをまず、見つけなきゃいけない。そのために……」
『おおっと! ここで、最初のクラスがポイントをゲット! 最初に魔法玉を手に入れたのは、Cクラスです! Cクラスに30ポイント入ります!』
はやっ! まだ開始10分くらいだけど。
「おそらく、総長のラルクだろうね」
「何で、分かったんだ?」
俺の疑問の内容まで、読んだよな。こいつ。
「彼も、一応総長だからね。向上心がないから、Cクラスにいるけど。本当はAクラスでもおかしくない実力のはずだよ」
ケイトの時も思ったけど、それってクラス編成する意味あんのかな。ケイトもBクラスいるのは自分の意思だって言っていたしな。
だが、これでCクラスも争いに本気になってきたってことだよな。俺たちも、早いところ魔法玉を見つけないと。そのためには、この協力したいって言っているやつをどうにかしなきゃいけないのだが。
「なあ、それで協力って」
「ああ。そうだね、協力っていうのは」
「あ」
前を歩いていたミュートが声を発した。その視線の先には、魔法玉がある。
「あ、魔法玉! それに、サックスとシュラ?」
魔法玉のそのさらに先には、ディックとカークの姿があった。
「お前ら、何で一緒に」
「そんなこと、君たちに言う義理はないよ。ちょうどいいところで出会ったね、カーク」
サックスは、カークの姿に興奮している。どれだけ戦いたいんだ、こいつ。
俺も、倒したいのはやまやまだが、今はそれより魔法玉の方だ。
「バカサックス。それより魔法玉でしょ」
ミュートは嬉しそうに魔法玉に向かって走る。
「ああ。まずは、ポイントだ」
意外にも、ディックも魔法玉の方へと走っていく。
戦うの好きっていってたから、サックスにのると思っていたが。自分がターゲットじゃなかったら、興味ないのか?
「っと、こんなことしてる場合じゃない。ビケル! 俺たちも行くぞ!」
俺とビケル、ミュートとディックの手が、同時に魔法玉へと伸びていった。
誰かの手が魔法玉に触れた瞬間、大きな光が炸裂し、俺の小さな身体は強風に飛ばされていった。