第110話 「大っ嫌い(ケイト視点)」
ずっと、妬ましく思っていた。
『3回戦、Bクラス所属ケイト・ミューン対Dクラス所属キャメル・マクベス!』
元々、クラスが一緒になったことで知り合い、気も合った。キャメルは、尽力が高い上に、他の能力もBクラスではトップの成績を誇っていた。そのことは、初めは自慢だった。
「私に一度も試合で勝てたことなかったくせに」
友達なのに、隣に立てたことなんて一度もなかった。自慢は、いつしか妬みに変わっていった。そしてそれは、キャメルがソディーの味方をしたことで爆発してしまった。
「なめていると、痛い目を見るのはあんたよ?」
キャメルがDクラスに落ちて、幾月か流れたけど、キャメルを負かしたいという想いは変わっていない。
私は、あれからずっと訓練をしてきた。どうせ、あっちは落ちこぼれのDクラスに落ちて、何もしてこなかったんだ。今こそ、私の方が上ってことを証明してみせる。
「どうしたの? 来ないの?」
その余裕そうな顔を、めちゃくちゃにしてやる。
「今までの私と一緒にしないでよ!」
地面を蹴って、キャメルの眼前に行く。このスピードに付いて来れるやつは、Bクラスにもいない。
そのまま、剣を振りおろした。
「確かに、強くなったわね」
甲高い金属音がして、私の剣が空中で止まる。
「でも、それじゃあ私は倒せないわよ」
まさか。私のスピードに付いて来れたっていうの。特Sさえ、見逃したのに。
「ちっ」
キャメルの剣に跳ね返され、地面に膝をついた。
たとえキャメルの目が私のスピードに付いて来れたとしても、私にはこれしかない。
「まだよ!」
さっきよりも強く地面を蹴って、キャメルに迫る。キャメルは真っ赤な剣で私の剣を受け止めるけど、これで終わらない。さらに剣を振って、連続で攻撃を繰り返す。
「くっ」
キャメルの顔に、苦悶の表情が見え始めた。
よし。行ける。
「ここよ!」
キャメルの隙をついて、右腕に剣を突き出す。私の剣はかすかにキャメルの右腕を逸れたものの、皮の表面を切り裂いた。
「ブラット!」
「え?」
キャメルの右腕から流れた血が、勢いよく鋭利な形を作り出す。キャメルはそれを左手で持ち、いまだキャメルの右腕の隣にあった私の右腕に突き刺した。
「きゃっ」
思わず、手から剣が離れる。
「諦めなさいよ。あんたが私を傷つけるたびに、私の武器は増えていくの」
確かに、キャメルは血を操って剣にする。でも、Bクラスにいた頃はまだ1つの剣を操るだけで精一杯だったはず。
「あんた。いつの間に、操れるように」
「あんたたちの言う通り、Dクラスは落ちこぼれ。他でもない、私たちがそう思っていた。でも、ただ1人、落ちこぼれなんかじゃないって言ってくれるバカがいたのよ。私たちを信じてくれるバカがね。私は、そいつのために強くなろうって決めたのよ」
キャメルが、グランドの方を向く。つられて見ると、目線の先にはシュラ・イレーゼルがいた。
やっと勝てると思ったのに。
「あんたが、私たちを恨む理由は知らないけど。少なくとも、私たちはもう落ちこぼれじゃない。私たちの仲間に手を出すのは、許さない」
気に食わない。キャメルも、ソディーも、ノックルも。シュラ・イレーゼルも。全員、ぶっ潰してやりたい。
「まだよ。まだ、終わってない!」
私の剣は、すぐ目の前にある。左手はまだ動く。まだ、終わってない。
左手を、剣の方へと伸ばす。その瞬間、頭に強い衝撃が走って視界が閉じた。