第109話 「2日目ですってよ」
『みなさん、こんにちは! あれ? 返事が少ないですよ? みなさん、こんにちはー!』
いい加減、このハイテンションの放送をどうにかして欲しい。
『2日目となると、元気なくなるんですかねえ。まあ、始めましょうか! 今日の競技は、剣術と武術。それでは、剣術の試合から行ってみましょう!』
昨日も、こいつの呼び掛けに対してはほぼ反応してなかったと思うが。
『剣術のルールは至ってシンプル。相手を戦闘不能にするか、参ったと言わせたら勝ち。もちろん、昨日の法術と違って相手を傷つけるのはオッケーです。ですが、殺すのはなしですからね!』
剣術は、キャメルか。こいつの実力がどの程度なのかは知らないが。元Bの上位だし、剣もあるし。組み合わせさえ良ければ。
『それでは、くじを引かせていただきます。剣術1回戦は、Bクラス所属ケイト・ミューン対特Sクラス所属ツール・モンク。それでは、舞台に上がってきてもらいましょう!』
初っ端からキャメルじゃなくて良かった。
ケイトがここで登場か。総長っていうくらいだから、実力はあるのだろう。
「ふんっ。Bクラスの女子相手とか。俺にとっては何の面白味もねえな」
ツールは、金色の髪をかきながら大きな欠伸をする。
特Sのやつにとっては、Bクラスなんて歯牙にもかけないのかもしれない。
「あら。そんな余裕そうなこと言ってると、痛い目見るわよ?」
対するケイトも、臆することなくツールを挑発する。
「そんな安っぽい挑発、俺が乗ると思ってんのか?」
ツールは剣を抜きながらも、その顔から余裕そうな雰囲気は抜けない。ケイトをなめていることが、心なんて読まなくても伝わってくる。
「ふふっ。挑発じゃないわよ」
ケイトも、剣を抜く。
「はあ? Bクラスなんかが特Sに負けるわけねえだろ」
俺はツールの言葉を聞いて、Dクラスがバカにされる理由が分かった気がした。
この学校は、クラス至上主義。Bクラスよりは特Sがえらい。Dクラスよりは他のクラスがえらい。そう決まっているといっても過言ではないほど、クラス編成が力を与えている。
「いいことを教えてあげるわ。私は、Bクラスから上がれないんじゃなくて」
ケイトが言葉を区切った合間に、ケイトの姿が舞台上から消えた。
いや、消えたというより見えなくなったという方が正しかったのかもしれない。なぜなら、次の瞬間にはもう、ツールの剣が高く舞い上がっていたからだ。
「Bクラスに上がらないの」
ツールから少し離れたところで対峙していたケイトが、一瞬の間にツールの目の前へと移動し、ツールの眼前に剣先を向けていた。
「お前、何で」
「あんたを守るものは何もなくなったわよ。降参しなさい」
ツールは、自分の手からいつの間にか離れていた剣が信じられないみたいだ。目的をなくした手を見開いた目で見ている。
「俺は、まだ負けていない」
その言葉が強がりであることは、誰の目から見ても明らかだった。
「そう」
ケイトが、剣を引いて一歩下がる。ツールは安堵の表情を浮かべ、一歩前へと出ようとする。しかし、その表情のまま、ツールは凍りつくこととなる。
ケイトがいたその場、ツールの目の前に剣が突き刺さるように落ちてきた。ツールがもう少し前に出ていたら、言うまでもない。ケイトはそれを分かってて、一歩下がったのだ。
「ま、参りました」
ツールの口から、敗北の言葉が吐き出された。
『1回戦、勝者はなんとBクラス所属ケイト・ミューン!』
あいつ、色々強気で言うだけのことはある。
おそらく高速で移動したんだろうけど、見えなかったし。男子の持つ剣を高く跳ね上げれるほどの力を持っているということだ。しかも、冷静な分、やっかいなのかもしれない。
キャメルとは因縁もあるし、出来れば決勝まで当たらないで欲しいが。
『それでは2回戦参りましょう! 2回戦は、Cクラス所属フィリア・ニューチル対Sクラス所属サン・メナクス。それでは、舞台に上がってください!』
Sクラス代表は、サンか。ユアンが絶賛するほどの腕前だし、俺もこの前戦ったから分かるけど、相当な強敵だ。
「シュラが出るわけでもないし。私は剣術の試合なんて出たくなかったんだけどなあ」
サンは、舞台に上がってもなお愚痴を漏らしている。
「俺じゃあ、役不足だってことかよ」
挑発しているつもりはサンにはないんだろうけど、フィリアはテンプレのように怒りをあらわにしている。
「うん。そういうことだよ」
その戦いは、言うことがないほど鮮やかで、圧倒的だった。
「参り、ました」
試合が終わった時、舞台上には身体中に細かい切り傷を受けて涙目になっているフィリアと一切汚れていないサンが相反した表情で存在していた。
『さあ! これは予想通りの結果となりました。勝者はSクラス所属サン・メナクス』
キャメルの相手は、ケイトかサンのどちらか。
どっちもやだなあ。俺でも、多分この2人には簡単に勝てない。
『3回戦は、Bクラス所属ケイト・ミューン対Dクラス所属キャメル・マクベスです!』
そうこうしている間にも、レンはくじを引いていた。
ケイト相手か。どっちが良かったわけでもないけど、出来るならサンの方が良かった。ケイトは、何をしてくるか分からない。多分、まだキャメルやソディーに対して貶めたい気持ちは持っているはずだ。
「久しぶりね。キャメル」
「そうね。あんたがこんな試合に出るなんて、珍しいわね」
俺の心配をよそに、2人は普通に会話をしている。
「剣術には、キャメルが出ると思ったからよ。あんたが出れるって言ったら、これくらいでしょうし。あのチビッ子はどうせサバイバルでしょ」
俺たちの計画が読まれている。頭もそれなりの働くっぽいな。
「なに? そんなに私と戦いたかったの?」
「ええ。どれだけ傷つけても、文句は言われないでしょうから」
ケイトは、嬉しそうに笑う。
やっぱり、傷つける気満々だよ。だけど、キャメルもどこか嬉しそうにしている気がする。この2人の間にどういう関係があるのか、俺は知らない。ただ、いじめていた方といじめられていた方ということくらいしか。もしかしたら、それ以上の何かがあるのかもしれない。
「相変わらず、強気ね。私に試合で一度も勝てたことなかったくせに。ブラット」
キャメルは持っていたナイフで自分の腕を切り、真っ赤な剣を取り出した。ケイトは、腰から剣を抜く。
「なめていると、痛い目を見るのはあんたよ?」
2人の間に、冷たい空気が流れ始めた。