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転生初期からイージーモード・少年期  作者: きと
クラスマッチ編
111/132

第108話 「まだ終われません」

 俺はまだ今日を終われない。


「ノックル」


 グランドを出て隣の校舎に入ろうとするノックルを、寸前のところで呼び止めた。


「なんだよ」


 武術の試合は明日。ノックルの力の謎が分からないまま、試合をさせるのも不安だ。


「聞きたいことがあるんだけど」


「それ、歩きながらでもいいか?」


 ノックルは、若干不機嫌そうだ。ていうか、何でこいつ校舎の中に入ろうとしてるんだ? もう、今日は終わりなのに。

 ノックルは俺の返事を待ちながらも、目線は一か所に向いている。


「もしかして、医務室に」


 俺の言葉に、ノックルの顔が一層不機嫌になる。


「わ、悪いかよ」


 図星か。ホセが心配だったんだな。相変わらず、人の痛みに敏感なやつだよ。


「ふっ。悪いわけねえだろ! 一緒に行こうぜ」


 俺の話しなんて、ホセを見舞った後でも問題はない。何より、ノックルの気持ちが嬉しくて、顔のニヤケが止まらない。


 俺とノックルは正反対の表情をしながら、医務室の扉を開けた。


「あれ、シュラ君じゃないか。また来たのかい? ホセ君はまだ目覚めてないよ」


 部屋の中には、椅子に座っているシックとまだベッドに寝ているホセがいた。


 そりゃ、俺がさっき出て行ったばかりだから、まだ寝てるよな。


「ホセ!」


 ノックルは、ホセの痛々しい身体を見て顔をしかめる。


「ん? 君も怪我をしているじゃないか」


 ノックルは、コナーの身体を利用して生身で修行しているため生傷が絶えない。もう治ることのない古傷も、身体に残っている。


 確かに、その傷を見逃したら医者失格だよな。


「さ、触るな!」


 シックが伸ばした手を、ノックルは弾き飛ばした。


「あ、すいません」


 シックの手に傷はついてない。しかし、ノックルは後悔を露わにした。そんなノックルとは対照的にシックは優しく微笑んで、再度ノックルに手を伸ばす。


「もしかして、コナーかな? 大丈夫。俺もコナーだ。君に触っても、傷つかないよ」


「でも、俺。自分の剣力も制御できないから」


 コナー同士がぶつかったらどうなるかは知らない。おそらく、ノックルも知らないだろう。コナーになってから、誰とも仲よくしてこなかったのだから。


「ああ。君は剣力も高いんだね。それは、辛かったね」


 ノックルは、頭に伸ばされたシックの手を拒まなかった。


 シックの様子から察するに、ノックルとは初対面なのだろう。ということは、ノックルの事情は知らないはずだ。人を傷つけたことも。それによって、自分自身が傷ついたことも。

 それでも、シックはノックルの心を汲み取った。それは、シックもコナーだからなのか。それともシックが医者だからなのか。


 俺には分からなかったけど、確かなのはシックが良いやつということだな。


「あ、はい。ありがとう、ございます」


 ノックルは涙こそ流さなかったが、その心は少し救われているような気がした。


「ねえ、先生。先生もコナーなら、ノックルの剣力の抑え方とか分かんないの?」


 シックが、剣力を放出しているようにも見えないし。


「ん? うーん。力になれればいいんだけど。あいにく俺は剣力が低くてね。何で、コナーになったのか疑うくらい」


 そうか。医者になってるんだから剣力は高くないか。なら、コナーになる素質って何なんだろう。


「でも、もしかして君、発作起きてる?」


 シックの視線はノックルに向いている。


 発作? って何だ?


「起きてる。何で、分かるんだ?」


「剣力が抑えられないならそうかなって」


「発作って?」


「お前も、見ただろ。俺がお前を傷つけようとした時の。俺じゃ、抑えきれないんだ」


「あ!」


 あれか。後5発って言ってたやつ。まさに、俺が聞きたかったことじゃないか。


「あれが、発作か! あれは、何なんだ?」


「俺でも、上手くは説明できないんだけど」


 ノックルがシックの方を困った顔で向く。初めて、ノックルとシックの視線が交わった。


「発作っていうのはね、1週間に1回。剣力を抑えきれないコナーに起こる症状だよ。全員に起こるわけではないんだけどね。発作が起きたら、剣力を出すために周りを攻撃しまくるんだ。攻撃回数は個人によって違うけど」


「俺は、多分20回」


 だからあの時、攻撃の回数が分かっていたのか。


「それだけ?」


「いや、1つやっかいなことがある。それは、一番近くにいるものを攻撃してしまうということ。発作が定期的に来ることは分かっているから、その時になると誰もいない所に移動して終わるのを待つしかない。だよね?」


 ノックルは、無言でうなずく。


 なるほど。俺を狙って攻撃してきたもんな。


「ノックル。次の発作はいつなんだ?」


 ノックルは、俺の視線から目を逸らす。何で、そんな言いにくそうに。


「おい?」


「あ、明日」


 それは、またタイミングが良いと言うか、悪いと言うか。

 ちょうど試合の時だったら良いな、とは気軽には言えなかった。


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