表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生初期からイージーモード・少年期  作者: きと
クラスマッチ編
109/132

第106話 「良かった」

「ところで君。ホセ君の所に行くんじゃないの?」


 俺の行先を、俺よりもサックスの方が良く知っていた。


 そうだった。カークが行ってしまった今、ここにとどまっている意味はない。


「サックス。お前、案外いいやつだな」


「ホセ君は、僕が戦いたいやつの1人だからね。まあ、君もだけど。サバイバルを楽しみにしてるよ」


 楽しそうに笑いながら、サックスは去って行った。


 さて、俺も医務室に急がなければいけない。


 医務室は、校舎の中に入るとすぐ見つかった。白い服を着た人たちが、大慌てで入っていったからだ。


「ホセ!」


 俺も慌てて医務室に入る。医務室は、そんなに広くはない。ベッドが2つと診療する場所が1つ。そのベッドの片方に、眠っているホセの姿があった。


「ホセ」


 俺の呼び掛けには反応しない。

 首まで包帯で巻かれているが、息はしている。良かった。生きてるな。


「君は、シュラ・イレーゼル君だね」


「あんたは?」


 後ろからいきなり声をかけられた。振り返ってみると、白い服を着たおっさんが立っていた。服は着崩しているし、アクセサリーを着けて一見チャラそうな風貌をしているが、優しそうな顔は確かに医者の素質を持っているような気がした。


「医者のシック・クリスだ」


「あの、ホセの怪我は」


「傷は深いが、大丈夫。命に別状はない」


 シックの優しい口調が、俺の心を安心させる。


「ただ、その傷が妙でね」


「妙?」


「あ、いや。こんな話し君にしても」


「教えてくれ! 俺は、カークを許せない。絶対に、倒さなきゃいけない相手なんだ」


 カークとは、サバイバルで戦うことになる。何でもいい。何でもいいから、あいつのことを知っておきたい。


「ホセ君の身体にあったのは、今まで見たことがない切り傷なんだ。剣でもナイフでもない。しかも、相手は何も持っていなかったらしいじゃないか。素手で、あんなに深く傷がつくなんて考えられない」


 シックは、深刻な顔をして言う。医者が言うことなのだから、確かなのだろう。でも、それならカークは何か武器を隠し持っていたのか?


「ん」


「ホセ?」


 ホセが苦しそうに目を開けた。


「おう、じ、さま?」


 顔を歪ませ、荒い息を吐きながらも、ホセの視線は俺をしっかりと捉えている。


「無理するな」


「だい、じょうぶです。王子様。勝てなくて、すいません、でした」


 途切れ途切れながら、ホセの言葉の熱は帯びてくる。


「すいません、でした。大事な、試合なのに。負けてしまって」


 ホセの目から、涙が零れた。


 魔法が得意なこいつにとって、法術の戦いで負けることは悔しいのかもしれない。でも、悪いのはこいつじゃない。こいつは真剣に戦おうとしたんだ。カークがそれをぶち壊した。


「負けたことは気にするな。誰も、お前が悪いなんて思ってない。ゆっくり休め。俺が絶対にかたきを取ってやる」


「ありがとう、ございます。王子様」


 ホセは再び眠りについた。


「眠ったみたいだね」


「ああ。先生、ホセをお願いします」


 ホセの治療は、シックに任せるしかない。


「それは、当然だけど。君、どうやってかたきを取るの?」


「それは」


 正直、策なんて全くない。カークに関して分かっていることは1つもないのだから。俺よりも魔法が得意なホセが負けたのに、俺なんかが勝てるのだろうか。


 いや、悩んでいても仕方がない。


「まだ考え中だけど。仲間がやられたのに黙ってられるか。かたきが取れなきゃ、仲間じゃない」


「なるほどね。さすがは王子様だ。なら俺は、この傷がどうやって出来たのかを調べてあげよう」


「え」


 何でそこまで協力してくれるんだ。初めて出会った、Dクラスの生徒なんかに。


「何で、そこまで」


「医者って言うのは、頑張っている人の味方なんだよ」


 シックは俺の頭を撫でて、いたずらな笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ