第105話 「何がしたかったんだ」
『ちょ、医療班!』
ちょっと待て。今、何が起こった?
『早く! 医務室に!』
マイク越しに、焦ったレンの声が響く。
ホセは担架に乗せられたものの、一つも動かない。血で成された水たまりが白い床を汚している。その舞台で唯一表情が読めないカークは、舞台から静かに下りていった。
「シュラくん! ホセくんが!」
ソディーの声で、俺の思考が現実に引き戻された気がした。
「あ、ああ。そうだ、ホセ」
ホセは、すでに医務室に運ばれている。
行かないと。でも、次の試合が。
『えー。中断してしまってすいません。カークはルール違反として失格。優勝はサックス。準優勝はホセ。第3位はメルナとします。よって、特Sクラスに10ポイント。Dクラスに5ポイント。Bクラスに3ポイント入ります』
レンの声が響くものの、場は騒然としていて一向に収まらない。
そりゃそうだ。いくら戦いだと言っても、ルールを破るやつがいるなんて。
『というわけで、次は学術に移ります』
学術っていうと、ソディーか。どうしようどっちを優先すれば。
「ソディー。次、試合」
「私のことは、いいよ。シュラくんはホセくんの方に行ってあげて」
「え、でも」
そりゃホセは心配だけど。今、幼馴染があんな目に合って一番不安なのはソディーだろ。
「大丈夫よ。ソディーには私たちがついてるわ」
「ああ。シュラ、お前が行ってきてくれるか?」
「あいつに、負けたことは気にするなと言ってくれ」
「キャメル、ビケル、ノックル」
いつの間に、こんなに結束して。
「あ、ああ。任せた!」
こいつらになら、任せれる。
医務室は、グランドの左隣りの校舎の中にある。ホセはそこにいるだろう。
生徒の間を通り抜け、グランドの外に出ようとした俺の目の端に映ったのは黒いフードだった。
「カーク!」
何でこんな生徒の端の方にいるのかは知らないけど、都合がいい。
こいつだけは許せない。
「お前! 何であんなことを」
狐面は俺の顔を見ている。
一体何を考えているんだ。ホセでも読めない心を、俺が読めるわけないけど。
「お前のせいで、ホセが・・・」
「ストップ」
俺の目の前に、腕が生えてきた。上を向くと、そこにはサックスの顔がある。
「君が怒るのも分かるけど、こいつの相手は僕だよ」
「だけど、俺の友達が」
決勝がおじゃんになったのも分かるけど、お前は優勝できたんだからいいだろ。
「良くないよ。僕だって本気で戦いたかったんだから」
こいつ、俺の心をモーションなしで読みやがった。ホセと同じ魔法使ってるんだろうけど、こいつは魔法名を発していない。
「君さ、しゃべれないの?」
俺とサックスのやり取りを無言で見つめていたカークに目を移す。
確かに、こいつは今のところ一言も話してない。
「ねえ。君に聞いてるんだよ。カーク君」
サックスはカークに近づいて行く。こいつも本当に怒っているんだな。
「おっと。そこまでにしてくれねえか」
サックスとカークの間に、ディックが割り込んだ。
「逃がすかよ! 俺はカークにどういうつもりなのか聞きたいんだ」
「僕も、まあ、このまま逃がすのはしゃくかな」
「お前らの事情なんて知るかよ。決着は、サバイバルで着けようぜ。行くぞ、カーク」
ディックとカークは、俺たちの気持ちを無視して去って行った。