第104話 「怪しさ満点だな」
『さあ! 第2回戦は期待通りの戦いとなりました。勝者は特Sクラスの総長、サックス・アリスト。さすがは、特Sをまとめるだけのことはありますね。それでは、次の戦いに行ってみましょうか!』
やっぱり相当な実力者なのか。謎の力を持っていることだけは分かったけど。あれを容認しているってことは、魔法を使ったってことだよな。
「ホセ。さっきのって」
ホセの方を見ても、ただ舞台を降りたサックスを睨んでいるだけだ。これは、解説する気はなさそうだな。
『それでは第3回戦。Dクラス、ホセ・エミリオと戦うのは一体どちらになるのでしょうか。くじを引かせていただきましょう!』
「え」
そうか。6クラスしかないから、2人はシードになるのか。3人を決勝に上げるわけにはいかないもんな。
あと残っているのは、BクラスとSクラス。どちらが良いとかではないけど、出来ればBクラスが良いところだな。
『決まりました! 第3回戦、Dクラス所属ホセ・エミリオ対Sクラス所属カーク・ディヤン。というわけで、必然的に第4回戦は、特Sクラス所属サックス・アリスト対Bクラス所属メルナ・ミアラーになります』
分かってたさ。俺の希望通りにならないころくらい。まず、転生先が王子って時点で、俺の計画は狂ってたんだから。それにしてもさ! こうも上手く俺の期待を逸れるものかねえ。
「心配しなくても大丈夫ですよ。僕と勝負になるのはサックスくらいでしょうから」
ホセは余裕そうに、舞台に向かっていく。
いや、あれだけの力を見せられてもう心配はしていないけど。でも、Sクラス相手だぞ。そんな余裕でいいのか?
『それでは、先に第3回戦行って・・・』
「ちょっと待ってもらえるかしら?」
群衆の中から、綺麗な声が響き渡った。
『あなたは、Bクラスのメルナ・ミアラーですね? どうされました?』
人が多くて誰が話しているのか見えないけど、レンの言うことは確かなのだろう。
「私は棄権するわ。特Sの総長相手に真面目に戦う方がバカらしい」
『良いのですか?』
レンの質問の先は、メルナではなく別の所にいるケイトに向いていた。
「いいわ。私も同じこと思っていたところだから。それに、私はDクラスが潰せればそれでいいもの」
こいつほど、目的がはっきりしているやつもいないだろうな。本当に、ぶれない。Bクラスがキャメルたちをいじめていたから、おそらくBクラスの総意なのだろう。
『分かりました! では連戦になってしまいますが、3回戦、ホセとカークの勝者がサックスと戦うことになります。それでは、行ってみましょう!』
舞台上には、ホセとカークが立っている。けど、顔が見えているのはホセだけだった。
『えーと、カーク? 別に反則とかではありませんけど、そのままするのですか?』
カークは、無言でうなずく。
おそらく、Sクラス生以外の全ての生徒が不審そうな顔をしている。
カークは黒いフードをかぶり、顔には狐を模した仮面をしていた。
「何なんですか? あなた」
ホセの動揺している顔を初めてみた。すでに本は開いている。だけど、いつもの余裕はどこにもない。
『えー、俺と同じクラスなんで軽く紹介させてもらいましょうか。彼はいつもあの格好です。が、ディック。試合もあの格好でやらせていいんですか?』
「ああ! それがこの大会に出る条件だからな。カーク! 本当はサバイバルだけのはずだったのに、お前のわがままで法術にまで出させてやってんだ。負けたら、承知しねえぞ!」
ディックの吠えた声がどこからか聞こえた。
普段からあの格好ってことは、誰もあいつの正体を知らないのか? 見た感じ、細い身体に小さい背で、女子に見えないこともないけど。でも、年齢も分からないからな。
「何で、何も読めないんだ」
ホセの動揺した声が聞こえる。読めないって、心がか? ホセの魔法が通じないってことか? それとも、心がない? まさか、そんなロボットじゃあるまいし。
ホセは、攻める手をあぐねているようだ。相手のことが分からないんじゃ、無駄に攻めてもな。
「特魔法コーラス・ヒーラ」
一気に決めることにしたのか?
「え?」
しかし、舞台上に響いたのはホセの声だった。カークは、一言も発しない。
どういうことだ? 本当に魔法が通じない?
ホセだけでなく、魔法の効果を知っている他の生徒も驚いている。魔法が通じないなんて、ビケルじゃあるまいし。
カークは、ホセの動揺の隙をついて間合いを詰めた。ホセの真正面にまで詰め寄るが、ホセは動くことすらできない。
そして、カークが腕を下から上に動かした瞬間、ホセの胸から血しぶきが舞った。
「ホセ!」
俺の目の前で、ホセの身体がゆっくりと倒れていった。