第103話 「真打登場か」
ホセはいつもの顔で舞台を降りてくるが、生徒は動揺してホセが通る道を開けていく。まるでホセは王者のようだが、ホセを見る生徒の顔は驚きと怒りに満ちている。おそらく、Dクラスが勝ったことが気に食わないのだろう。
『さあ! 驚きの結果となりました。第1回戦勝者はDクラスのホセ・エミリオ。五分の戦いになると見えただけでも驚きですが、最後は一方的な戦いに』
レンも、アンチDクラスなのかよ。
「王子様? 勝ちましたよ?」
「あ、ああ。お疲れ、ホセ」
いつの間にか、ホセが近くまで来ていた。周りの他クラスの生徒が様々な視線を向けてくるから、居心地悪いったらありゃしない。
「まあ、別に疲れていませんけど」
「なあ、何だったんだ? 最後の魔法は」
おそらく全員が気になっていることを、ノックルが口にした。舞台上に戻ったレンも、俺たちの方を向いている。
これが解決しないと、次の試合にも集中出来ないんだろうな。
「まだ試合が残っているので、ここでばらしたくないのですが。まあ、分かったところで支障はないのでいいでしょう。最後の魔法は、コーラスとヒーラの特魔法。効果は、相手の言葉を操ること」
「そんなの」
そんなの、ありかよ。人魔法賢者級の特魔法って、最強じゃないか。てゆうか、その魔法があるなら最初から使えばいいのに。
「別に出し渋っていたわけではありませんよ。あんなやつ相手に使うのは嫌だっただけです。一応、僕の切り札ですからね」
こいつ、本を開いてないのに俺の思考を当てやがった。いや、俺の思考というより、全員が思っていたことだろうな。
『さあ! 勝利の秘密が分かったところで第2回戦に行かせていただきます! 第2回戦は、特Sクラス所属サックス・アリスト対Cクラス所属スメル・タンバンです!』
呼ばれた2人が、舞台に上がっていく。
特Sの総長がここで登場か。相手がCクラスってことは、一方的な戦いになるか?
「そうだね」
舞台に上がったサックスが、突然言葉を発した。直前まで会話していた相手はいないはずだし、近くにいたスメルでさえ驚いている。しかもサックスの視線は、俺に向いていた。
俺は、自分の考えを言葉に出した覚えはない。それを、読んだのか? この力はまるでホセだ。
「こんな意味のない戦い、早く終わらせようか」
「何を! フィアム!」
スメルはサックスの言葉に怒って、火の玉を作り出す。簡単な魔法だが、そこはさすがに法術の代表として出るだけのことはある。見たことのないくらい大きく燃え盛っている。
だけど、傷つけたら終わりなのにどうするつもりだろう。
「おら!」
俺の心配をよそに、火の玉はサックスに向かって飛んでいく。サックスは余裕で微笑んでいたが、ホセとは違い何もしないということはなかった。
「はあ」
軽くため息をつき、手を横に振る。その途端、火の玉が消え去った。霧散したというより、突然消えた。
「何だよ、今の」
俺の言葉とスメルの言葉が重なる。
「僕は早く、ホセ君と戦いたいんだ」
サックスがまた手を横に振る。
「参りました」
そして、スメルの口から敗北の言葉が発せられた。ホセの時と同じ状況だ。だけどスメルは敗北者に相応しい表情を浮かべている。
「そんな、まさか」
俺の隣から、かすれた声が聞こえた。
「ホセ?」
「ホセ君。決勝で戦うのを楽しみにしてるよ」
舞台上のサックスは笑みを浮かべてホセを見つめる。しかし、サックスの目は笑っていなかった。
あの時と一緒だ。俺が初めてサックスと会った時と。
「王子様。先に謝っておきます。もしかしたら、彼には勝てないかもしれない」
いつになく弱気なホセの言葉は、俺にしか届かなかった。