第99話 「クラスマッチみたいだな」
「というわけで、第1回クラス対抗大合戦は1週間後」
この教室の中で、現在笑顔を見せているのは俺だけだった。
「あんたね! 何でそんな無茶なことふっかけたのよ!」
Dクラスに帰ってきてみんなに総会の結果を報告したところ、様々な反応が返ってきた。
ご存知の通り、怒っているのはキャメル。素直に驚いているのはソディー。呆れているのは、ホセとノックル。
「そうだぞ。俺たちが上のクラスのやつらにかなうわけないだろ。何したいんだ、お前は」
あ、ビケルも怒ってた。キャメルと違って言い方が優しいから分かんないけど。
「俺は、勝てないケンカはしない主義だ。俺たちの力なら勝てる。何も知らないくせに、落ちこぼれなんて言わせておけるか」
俺の本気の視線に、キャメルとビケルが押し黙る。
「ま、もう決まったことだし。そういうわけだから」
「はあ。何かやらかすとは思ってましたが。それで、内容は?」
さすがホセ。頭が良い奴は切り替えも早い。
「内容は5種目。剣術、学術、法術、武術、そして最後にサバイバルらしい。サバイバルだけ2人で、後は各クラス1人ずつ輩出。基本的に同じ人間が違う種目に出てもいいらしいが、総長は必ずサバイバルに出なければいけないということだ」
全て、あの場でじいさんが決めたことだ。クラス対抗にした理由は、ついでにクラス編成を見直すためらしい。
「総合順位でそのままクラスを決めるらしい。個人的に優れた者も上のクラスへ行ける場合があるけどな」
どうやらじいさんも、落ちこぼれと称されるDクラスの存在をどうにかしたかったらしい。でも俺たちにとってはそれは好都合だ。1位になれば、特Sクラスになれるってわけだからな。学校を見返すにはもってこいだろ。
「それで、誰が何に出るのよ」
さっきまで文句を言っていたキャメルだが、意外にやる気にはなっている。
「それが、Dクラスだけ規則が付けられてな。実力を見せると豪語したんだから、全員出せってよ」
言い出したのは、ケイト。あいつ、まじで合法的に潰す気だな。
「本当は、キャメルとソディーは出したくなかったんだけど」
女だし。傷つけたくないし。
それに、俺はこいつらの実力を直で見たことあるわけではない。ホセとノックルは大丈夫だと思うけど。ソディーに至っては、能力値が低いって聞いてるしな。
「あんた今さら何言ってんのよ。出るに決まってるでしょ」
「そうだよ、シュラ君。私たちだって、Dクラスなんだから。シュラ君が言ったんだよ。みんな仲間だって」
「お前ら」
有り難いな。
「ホセ。お前の賢い頭で、誰が何に出るのが一番いいか、考えてくれないか?」
「だろうと思いましたよ。剣術はキャメル、学術はソディー、法術は僕、武術はノックル、サバイバルはビケルと王子様が出ればいいのでは?」
返し、速いな。もしかして、考えていてくれたのか。
法術、武術、サバイバルは申し分ない。学術も百歩譲っていいとしよう。ソディーがどれだけ賢いのか知らないけど、消去法でいけば妥当だろう。
でも、剣術がキャメルって。
「大丈夫なのか? ていうか、キャメル剣使えるのか?」
人はそれぞれ得意な武器を持っている。俺とビケルは剣を持ち歩いてるし、ノックルは硬い皮膚を活かして素手で戦っている。ホセは魔法を得意としてるから魔法が武器なんだろう。
でも、キャメルは何も持っていない。キャメルもホセタイプだと思っていたが。
「使えるわよ。シュラ、ちょっと剣貸して」
何をするのか分からないけど、素直に渡してみる。
キャメルはその剣で、自分の腕を切った。
「お前、何して!」
「うるさいわね。いい加減、慣れなさいよ」
慣れるものか。尽力が無限と言っても、痛みがないわけではないんだから。
「あんたが、私の剣を見たがったからでしょ」
「どういうことだ」
「こういうことよ。ブラット」
キャメルの腕から流れた血が、目的を持って固まっていく。それは、剣の形になった。
「ブラット。血を操る人魔法。キャメルはそれを使って自分の血を剣にして戦うんですよ。尽力が無限ということは、血も無限ですからね。王子様、これで納得ですか?」
「あ、ああ」
キャメルが傷つくことには、反対していたはずなのに。真っ赤な剣を手にして妖艶にほほ笑むキャメルを、俺は不覚にもかっこいいと思ってしまった。