第10話 「こいつに任せたくないが(リュン視点)」
どう考えても、シュラ様を普通の子供とは思えない。
年相応でない口調、考え方。どうしても、あの子とダブってしまう。
だから、こんなにも協力してしまうのだろう。
「シーク。元気だったか?」
「おお。久しぶりだな。リュン。お前から俺のところに来るなんて。明日は雨かもな」
目の前の男は、酒を煽りながらこちらを向く。
部屋には酒の匂いが充満し、机の上には空き瓶が転がっている。
また昼間から飲んでいたのだろう。まったく。だからこいつの所に来るのは嫌なんだ。
「またこんなに飲んで。今日の仕事は?」
「頼まれた分は終わってるぞ」
シークの示す方を向くと、刀身が輝いた剣が並んでいる。
「それで。リュン。何の用だ? お前が用もなく来るはずないよな」
「頼みがある」
「お前、剣術向いてないだろ」
「剣のことではない。鍛えてほしい子供がいるんだ」
酒好きなこいつに、シュラ様のことなんて頼みたくない。悪い影響を与えるに決まっている。
「子供?」
「シュラ・イレーゼル」
「お前、それって、王子様か?」
「そうだ」
国王様と女王様にばれずに剣力を鍛えるには、こいつしか思い浮かばなかった。
「俺に子供を預けていいのか?」
「ほんとは嫌だよ。でも、お前しか頼めるやつがいない」
嫌悪感を露わにしても、こいつは顔色一つ変えやしない。
「頼む。元バリント国軍隊長、シーク・シュナイザー」
「いいだろう。引き受けた」
シークは、皮肉な笑みを浮かべた。