ケファロニカ島沖海戦
1942年2月14日・地中海 1600
日本人達が年末に転移してどこかに吹き飛ばしてしまったバーリという街には、1934年に開港したばかりの空港があり、陸軍航空隊は用地としては適地であるそこに居を構えていた。これまで空の来客からは、性能隠匿ということもあって零戦主体の海軍が行うとしていたため、何もない状態から掘っ立て小屋にちかい掩体壕をいくらか構築したり、隠蔽のためにかぶせられた布で、テントが散在するような光景を見せていた。だが、それも今となっては全て取り除かれている
『即応態勢にあったものはすべて出す!間に合う奴も全部だ!回せー!』
『点火!』
あたりには機付きの整備員たちの怒号とエンジンの轟轟たる音響がこだましている。そして搭乗員たちの見つめる空には、沖合のタンカーや空母の燃える煙が立ち上っているのがまざまざと見受けられた。
『先行の司偵が敵攻撃隊への接触に成功したそうです!』
『よぉしっ!』
喧騒が渦巻く中、通信兵からその一報を聞かされた鈴木少佐が待ちかねたとばかりに声をあげる。現状、基地は司偵隊の戦隊長である彼に任されていたし、とにもかくにも敵艦隊を捕捉しなければ面目も立たない
『少佐殿!』
搭乗員らが期待した目で少佐を見つめる。堪忍自重の時は過ぎ去った。あとは・・・!
『待機各機は出撃!我々を攻撃してきた驕敵を撃破せよ!かかれ!』
『応!』
と、鬨の声をあげて搭乗員達が乗機へと駆け寄っていく
『ほか、偵察情報をイタリアの連中にも教えてやれ!敵はそこにいるぞ、とな!』
鈴木少佐はもう一度海の方をみる。ただで済ませてなるものか、この落とし前はきっちりつけてやる
『あがり次第、基地要員は帰還準備を為せ!』
おそらく帰還は薄暮か夜間になりうる。滑走路を判別できるようにしなければ、機材を大量に失うことになるだろう。そんな恥はかかせられない
『さぁ、欧州に我ら帝國陸軍航空隊ぞあり!だ!』
やることはまだ大量にある
プッリャ州・レッチェ 1615
『早いもんだ、あれだけの規模を連絡してからこれだけの早さで投入するとは』
空を見上げる男の目に映るのは、緑色の機体。日本機が海岸線に沿って飛行しているのでその存在に気付いたのだ
『どれぐらいで俺たちも上がれる』
そして、男の顔に現れた表情は嫉妬であった
『少佐、いくらなんでも錬成途中の我々の現状で攻撃は・・・』
『あんな通信を受けたまま行かねぇのは男じゃねぇよ。少なくとも、俺がいる限りは洋上攻撃で後れをとってたまるか、俺一人でも出る!さっさと機体を用意しろ!訓練用に燃料も弾もあったはずだ』
その男の名はジューゼッペ・チェインニ、反跳爆撃の産みの親ともいえるこの男は、部隊の機体をJu87に改編するためにここに来ており、偶然にもこの攻撃行を目撃することになったのだ
『そもそも、またなんでこの距離まで相手の接近に気づきやがらねぇ!恥の上塗りじゃねぇか!そうだろう、タラントラ!』
『それは・・・そうでありますな』
そして、彼ら編成途中でのちに第102戦闘爆撃中隊と呼ばれる伊達男どもにとって、確かにこれは屈辱であったし
『帰りは夜になるかもしれんが、良い訓練だ』
彼らは相対的に性能が劣化しつつあるJu87を夜間でも使えるように錬成を行っていたからだ。ここで出らずしていつ出るというのか
ケファロニカ島沖 1714
『百式司偵からの誘導は続いている、か。有り難いことだ』
四式重爆、飛竜の中隊長機を先頭に陸軍航空隊は飛ぶ。レウカの岬を超え、ケルキラからパクシ島の地紋に沿いつつここまでたどり着いた。
海軍さんから渡された推定情報をもとに先行した9機の百式司偵による扇状偵察で、敵を思ったよりも早く見つける事ができた。そしてその優速を生かして敵戦闘機を振り切りつつ今も司偵隊は無線誘導を続けてくれている。発見の報を受け、バーリから飛び立った機材は69機。内訳は疾風が24機、屠竜が36機、飛竜が9機である。屠龍が多いのは、もしもの場合イタリア軍からの防衛を考えると地上掃射の必要性が大であると見込まれたからである。
『しかし、海軍さんを笑えんな、海に出ると尻がムズムズする』
パクシ島を超え、ケファロニカ島を過ぎると地中海のど真ん中だ、その先となると地紋航行とはいかない。こういう事を常にやっている海軍の連中に不安はないのだろうか?いかんいかん!
『脱落者が出ないようお互い注意しろ、こんな外国で迷子になったら往生するぞ!』
といっても欧州に居る俺達全員が迷子のようなもんだが。戦闘機乗りの俺たちの場合、一人でヨーロッパをさらに彷徨う羽目になる
『ん?』
列機の一人が右前の上を指さした。高度で上を取られているが、相手の数は8機程、よし!
『続けェ!』
増槽を落とし、バンクして列機に伝えてフルスロットル。続くのは半数の12機、残り半分はきちんと爆撃機と屠竜を護衛し続けている。敵しか目の内に入れないという粗忽者はこの64戦隊には居ない。そしてここで迎撃を受けるという事は、敵艦隊が近くにいるという事だ
『後は任せたぞ!』
それまでは絶対に守って見せる!
英機動部隊 イラストリアス
『うるさい蝿はまだ落とせんかね?』
ホランドが聞く。接触を開始されてから随分と時間が経つ
『ダメです、600キロ以上でその機は飛行しており、ハリケーンではどうにも・・・』
航路は相手にとって攻撃するならば夜に近くなるようなコースを選んだつもりだが、接触があまりにもはやく、直掩機がこれを落とせないでいる。トップスピードでは50km以上引き離されているのではないだろうか
『速度もさる事ながら、滞空時間もたいした物です』
知る限りの独伊の機体であれば、あれだけ動けばもうとっくに引き返している。ハリケーン側が最高速を出して補足を続けてしまうと、この後来るであろう攻撃隊への攻撃の際に足の短さから不具合が出てしまう
『では、やはり日本機か?』
『ほぼ十割。信じ難いですが、現実にある以上認めざるをえません』
日本機がそんな性能を持っているとは思いたくないですが、と参謀は付け加える。模造品とコピーばかりの国では無いのか?
『ですが、米軍機が我々の機材よりも航続距離は長い傾向にありますから、太平洋で米国と相対している日本機の航続距離が長い可能性は高いでしょう』
性能に対する検討はともかくとして、もっともな推測だ
『RDFに敵編隊を探知!方位030、到達まで15分!』
駆け下りてきた伝令がメモ片手に報告する
『来たか!対空戦闘用意、あるだけのハリケーンとマートレットを上げたまえ、攻撃を阻止するんだ』
英国にとってこの機動部隊は至宝だ。失うわけにはいかない。そして、通信傍受によれば本土でもなにか起きたらしい(ツェルベルス作戦)
『まず2小隊をぶつけて護衛を引き付けたら、覗き屋を追った奴らを引き戻す。それと残りの小隊で敵陣を崩す!』
編隊を崩せれば敵の攻撃効率は著しく低下する。単機ごとになれば対空砲火も投げかけやすい。RDFを使った誘導、迎撃は我々の十八番だ
『伝えてくれ。RDF班、本艦隊上空の防空は貴官らに任せる。とな、頼むぞ』
『はっ!』
探知を伝えに来た伝令に言付けを言い付ける
『機関最大戦速、対空監視を巌にせよ!』
配置命令は既に出していたので、機関の調子をあげるべく艦長が命令を下す
『第2、第15巡洋艦戦隊、輪形陣展開します!駆逐艦戦隊、続きます!』
対潜の為にそれぞれ配置していた位置から護衛の各艦が移動し大きな輪形陣を形成する。不足する艦艇の中から巡洋艦6隻、駆逐艦7隻を引き抜けたのは大きい。うち、3隻は対空力のあるダイドー級だ
『ハリケーン隊突破されました!』
『なにっ!?もうか?』
だが、ハルダーが望んだ迎撃のイニシアチブは64戦隊が常日頃から部隊に浸透させていた心掛けと、疾風とハリケーンの性能差によって一度も握られることもなく、大日本帝國陸軍航空隊がその攻撃力を英機動部隊へ叩きつける事になる
なにせ、シーハリケーンはMK.ⅠのAかBであり、武装は7.7mm機銃が8~12門。弾幕こそ脅威ではあるが、防弾が整っている疾風相手では分が悪いどころではなかった。性能向上型のMK.ⅡCは配備されたばっかりでまだ地中海にはお目見えさえしていない
『・・・巡洋艦1隻をつけてイーグルは離脱!輪形陣を狭める!』
『サー!?それは!』
イーグルは21ノットしか出ない。大きな輪形陣を展開したのは足の遅い彼女に合わせての事であった。彼女を輪形陣から外せば、航行の自由を得ると共に、艦隊の囮としての盾にするつもりなのだ・・・!
『イーグルは速力が遅すぎる!フォースCを守る。これが私の責務だ』
この罪は、私がいつか死んで主の御座でイーグルの乗員達に許しを請う。こちらに攻撃が集中する場合もある、ならば最悪イーグル一隻は残る!分散するならば最良で全部残る!アレキサンドリアから出撃した時から胸に秘めていた策だ
『アイ、サー!』
発光信号で離脱を命じられる。それに呼応してナイアドが対応してイーグルの最後の楯となるべく輪形陣から離れていく。ダイドー級の1隻をあてがうのがせめてもの手向けであった
陸軍航空隊
『すっげぇ対空砲火だ!』
英機動部隊がさかんに対空砲火を撃ち上げる、異世界に行っていた頃とは較べものにならない
『練習相手の海軍さんの師匠らしいからな!』
不謹慎ながら、陸軍航空隊には聯合艦隊(GF)を想定して攻撃目標として海上目標攻撃の練習をしていた。(他にも対海軍相手の戦闘を考慮したチセ開発の時、峯風級の火器搭載数などの情報が参考に出来たのだ)
といっても、多少ダイドー級が激しいだけで、今となっては秋月級や第2砲塔を撤去し機銃の増えた駆逐艦を揃え、巡洋艦、戦艦とが存在する海軍が見たら、まだまだ隻数と防空能力が足りないと言い出すかもしれなかったが(これは帝國海軍が自らの持つ、空母主体の第三艦隊を仮想敵にしたため)
『だがよ、俺達は陸軍だ。陸軍らしいやり方でお前らに痛い目をあわせてやる・・・!』
飛び立った陸軍航空隊の攻撃の主体は屠龍だ、そして屠龍の内12機は爆弾を搭載していなかった、その代わり37㎜砲弾をフルで装備していた
その爆弾を搭載していない屠竜は4機ずつ小隊に別れて目標とした艦を選別し、高度を下げ、海面近くを全速で駆け抜ける。爆弾を搭載しているもののうち8機は離れた場所に居る別な空母へ向かった、組しやすしと見たのだろう
『ちゃんとみんな後ろについて来てます!逆光もばっちりです!』
西の海に沈む夕日を背中に、屠龍隊は援降下で目標に迫る。2隻の空母を守るために12隻の艦艇がそれぞれ綺麗に並んでいる。さかんに砲火を上げてくる敵巡洋艦は、並列に2隻後方を守っている。あれだな
『俺達陸軍はよぉ』
照準器のレクチルをパイロットが覗きながら呟く
『敵の火点を一つずつ潰しながらでしか前進できねぇんだ・・・テメェの火力は俺達の進む道に居て邪魔なんだよ・・・だから』
レクチルの中央にはこちらに火を吐き続けるダイドー級の砲塔が捉われていた
『さっさと潰れてくれやぁっ!!!』
ドムッドムッドムッ
ガガガガガガガガカ!!!
機首の12.7㎜と37㎜が12.7㎜は連続的に、37㎜は断続的に音を立ててダイドー級の砲塔へと吸い込まれる。高角砲塔はその対空目標への追随の為厚い装甲は張られていない。ダイドー級の場合は前面のみが38mmである。戦車のように中の空間が狭いわけではないので、抜けたとしても確実に撃破できるとは言えないが
『ああっ!?野坂機が!』
侵入高度から雷撃機だと思われたのであろう、敵が必死に打ち上げる砲火が僚機を捉える
『あの野郎、何をする気だ!あっあー!』
その機体を敵巡に向ける馬鹿野郎!馬鹿野郎!バカヤロッー!
『やりました!敵砲沈黙!』
砲撃がやんだ、砲身がこうべを垂れたまま動かない
『くそ!おまけだ!抜けるときは後部銃座でやつらの頭を下げさせろ!』
『了解!!』
ダダダタダ!!!
『みんな行けっ!行けえっ!!』
彼等は離脱するが、残り16機は出来た対空砲火の穴からイラストリアス級空母へと突入する。こちらも軽爆がやるような急降下でなく緩降下でしかないが、空母の乗員からしたら、悪魔の使いである事に違いはない
ドドドドド!!!
そして空母は爆煙に包まれた
英機動部隊・イラストリアス
『ユーライアスが!!!』
ダイドー級の一隻をイーグルに付けた為、イラストリアスとフォーミダブルには各1隻、敵が来襲した後方の左舷と右舷に護衛のダイドー級がついていたが、イラストリアスについていて、最後まで砲火を被せてくれていたユーライアスのAとB砲塔の間に日本機が突っ込んだ。彼女の艦橋に破片が飛び込んだのだろう、指示が途切れた無事な後部のX砲塔が迷ったように首を振る間に日本機が彼女を飛び越えてくる
『これはいかん!総員衝撃に備えよ!』
ホランドが屠龍を睨む、対空艦を黙らせてから攻撃部隊を目標に送り込む・・・機数と経験がなければ出来ぬことだ、それが奴らにはある・・・!
ヒュルルルル
爆弾の空を裂く音が、対空砲火の轟音を引き裂いて響き渡る
『提督!!当たります!伏せて!!!』
参謀が体当たりをかますようにホランドを押し倒す
ドドドドド!!!
体が抑えられていたというのに一度宙に浮き、床に叩きつけられる、見た感じからして五発は固かったはずだ。参謀に礼を言いながら起き上がる。
『ダミッジリポート!』
艦長が叫ぶ、要員があわただしく動く中、ホランドが艦橋から甲板を見やる
『よおっし!』
艦の左舷側前部高角砲こそ破壊され、チロチロと炎を見せているが、爆煙の晴れた飛行甲板には・・・
『これが装甲の勝利だ!』
陸軍航空隊
《命中弾多数!効果は、なにぃっ!?》
250キロ爆弾の直撃だぞ!?
爆炎が晴れた後には、艦の縁に起きている火災以外、何も残ってはいなかった。向こうでは敵空母が燃えている。対空砲火が濃いイラストリアス級のグループに近づかなかった飛竜の隊も、別れて飛んで行った屠龍隊のあとに続いて攻撃した結果だろう、しかし・・・16機でやって命中弾多数だってのに・・・
《当たり前だ、イラストリアス級は500キロ爆弾の被弾を想定したものだ、ましてやそちら、陸用の爆弾じゃ元から抜けるはずなかろう・・・トドメは任せな!》
無線に割り込みが・・・首を振り回すと海面近くを濃緑の機体が滑っている
『海軍さんの天山か!』
数はひぃふぅみぃ・・・6機
《あいつを冲鷹の元に送ってやらなきゃ、勘定があわねぇんだよ、イギリスさんよぉ!》
腹には魚雷、そして流星改を装備する本土の機動部隊以外、世界の攻撃機が行ってしかるべきとされる範囲外の機動と速度で射点へと
『低い!ペラが海面を叩いてやがる・・・!』
気迫の効果もあるのだろうが、何て奴らだ
『でもこれで、これで・・・!』
あいつにトドメが刺せる!
《左舷側の対空砲火に穴が出来てる、ありがとうよ、陸軍さん》
頭を抑えてがっちりブチ込んでやるという意思がありありと見える
《海の底で沖鷹に詫びて来いや!!てぇーっ!!!》
イラストリアス
『っ!?』
爆煙の向こうから今までと違って、単発の機体が低空を横一列に並んで突っ込んでくる。まるで繰り糸にくくりつけているかの様に
雷撃機だ!!!
しかし理性は否定している、魚雷を積んであのような速度が出るはずが・・・ありえない!そんなバカな!
『艦長!』
艦長が頷いて航海士に命令する
『ハードスターボード!』
そうだ、魚雷を積んだ雷撃機は動きが鈍い、これで射点をはずせr
ピタっと敵機は艦の動きにあわせて機体を滑らせる
『馬鹿な!!』
艦長が叫んだ。これを叱る事はホランドには出来なかった。同じ思いでいたからだ。想定がストリングバックやアルバコアでは仕方がなかったのかもしれない
『・・・なれば汝、受難を甘んじて受けん』
敵の機体から魚雷が投下され、白い航跡が伸びてくる。これは避けられまい。全てがゆっくり動く、だが時は止まらない。魚雷が艦の影へ入った
被雷数4、全て片舷。イラストリアスの命運はここに窮まった
『総員退艦!こいつは頭が重い、傾いたら一気に行くはずだ!』
艦長は被雷数と状況から半ば艦の保全を放棄していた。3か月前に失われたアークロイヤルは、当たり所が悪かったとはいえ、1発の魚雷が致命傷になった。それがこちらは4本だ。持ちようはずもない。そして、ホランドらには知りようもないが、このころのUボートの魚雷の炸薬量と九一式魚雷の炸薬量は50kg程度しか違わない。
致命的なまでに船体を破壊した魚雷は、機関室を中心に船底部にいた乗員をほぼ全員海底に引きずり込んだものの、総員退艦の命が早く出たことで、多数の乗員の命を救うことになる
『閣下!』
『・・・我々は取り返しのつかない火種をつけてしまったのかもな』
ホランドと艦長が離艦した15分後にイラストリアスは横転し、地中海へその身を没していった
英機動部隊上空
『たいちょー!英空母が!』
『やりやがったぞあいつら!』
全ての攻撃が終わったと思われた。チェインニの102戦闘爆撃中隊が到着したのはこの時であった。見れば、空母の1隻は完全に動きを止めて傾斜を増しており、離れた小ぶりな空母も動きを鈍くしながら煙を吐いている。護衛は1隻か
『さて、どうするか』
Ju87のRは250kg爆弾を1発積めるが、俺たちのやり方だとこれは積まずに、30kg程度の小型の爆弾を多数積んできてきている。ならば・・・
《ワルツを踊るぞ野郎ども!目標はあそこに1隻いる護衛艦だ!》
いつものセリフと共に機体をダイヴさせる。降下の速度で加速しつつ、海面を這うように飛ばすのがコツなのさ!
ダダダダダ!
『ぬるいぬるい!風邪をひくぜ!』
狙われた方であるダイドー級のナイアド側としては、ストゥーカと言えば急降下のため、ほぼ直上からの急降下爆撃であろうと予測し、仰角を上げていたことが災いした形となった。そして、ダイドー級としては第2グループの最初に属するこの艦は、高角砲が取り回しの効きにくい13.3センチ砲搭載だったこともあるが、悪名高いポンポン砲にヴィッカースの12.7mmの4連装機銃という構成であり、この急速な事態変化に対応できようはずもなかった
《投下!投下!投下!》
爆弾の重量を失った機体を加速させつつ、チェインニらは離脱する。落とされた爆弾はまるで水切り石のようにナイダドへと飛ぶ、人呼んでチェインニ方式!そして
ドドドドドド!
水柱と爆炎にナイアドが包まれる
《よぉし!踊りきったぞ野郎ども!》
してやったぜ、と後席が指を立てる。これでイタリア軍としての面目も立ったろう。あとは帰るだけだ
《後はしっかりおうちに帰る、だ》
おうちが一番、おうちが一番ってな!帰ることが出来れば、また出撃することが出来る。しかし、相手の損害はどうだろうな、喫水線下にもダメージはいくだろうけれども、30kg爆弾でしかないからな
『とりあえず中破と報告しとくか』
足が落ちてれば明日も攻撃できるかもしれない。そこは神のみぞ知るって奴だ
こうして、通り魔の如くイタリア空軍の攻撃隊が去ったところで、日没が艦隊を包み込むのであった。
しかし、まだ海戦は終わりを告げてはいなかったのである
第13戦隊 由良
墜落したパイロットなどを回収する為に派遣される旨となった第13戦隊と5駆であったが、ここで一悶着が発生していた。回収・救助を行う間に前路警戒を行うべく、由良が進出するとなった段で、夕立が自分もついていくと譲らないのだ
『八角艦長も困った奴だ』
戦隊司令が陸に上がってしまっているので、指揮を執っている由良艦長の前川は《熱望する》と手旗を振りまくっている夕立の姿に苦笑するしかなかった。八角艦長は水雷畑の大家であった八角中将の子息なので逸っているのであろう
『許可する。ただし、1艦のみだ。警戒巌となせ、電探は本艦だけの発信とする以下、各艦に達せよ』
これは5駆の残りの艦が我も我もと続かない為だ。肝心の作業の方がおろそかになってはならない。それから発信を制限したのは、E27などの普及により逆探の存在を組み込んだ戦技を取り入れるようになったからだ
『伝令!』
『なにか』
それからしばらくすることも無く、灯火管制下で真っ暗な艦橋に伝令が駆け込んでくる
『電探に感あり、方位艦正面、大型艦と思われます。反応大!』
ざわっと、雑音ともなにともつかぬ、熱風のような衝撃が艦橋内を席巻した
『待て、該当の反応はこちらに向かって来ているのか』
前川が振り向き、周りを制するように手を挙げて詳細を問う
『いえ、速度は一定で退避中の模様!』
落伍艦だ、大型艦、大物だぞ、千載一遇の好機、ざわめくように熱が上がっていく
『艦長!』
ここでやらねば水雷戦隊とは言えない。このイタリア半島に近い位置で処分を行っていないという事はそれだけ貴重な艦、航空隊の報告に依るならば・・・空母しかない!
『夕立にも連絡、我々2艦をもって事にあたる』
『では・・・!』
前川は前に振り返って、挙げていた手を振り下ろす
『突撃。水雷戦隊、いや由良の神髄、英艦よとくと御覧じろ、だ』
歓声が、艦橋を貫いた
第15巡洋艦戦隊 ナイアド
『イーグルは一体何をしているんだ!』
上構部の半分をチェインニの反跳爆撃によって破壊されたナイアドは、幸いにも機関に不具合を出すことなく航行が可能であったために、最後まで護衛の任を果たすと被弾による火災によって機関に損害を受けたイーグルを曳航していたのであるが、その曳航索をイーグルは一方的に切り離したのだ
『イーグルより発光信号!接近中の艦艇あり・・・蹴散らして追いかける、また会おう!との・・・こと、です』
see you againの部分を、伝令は肩を震わせながら言った。イーグルは被害を受けたもののRDFが生きており、追撃者の影を見つけたのだ
『馬鹿野郎!もう、お前さんは戦艦じゃないんだぞ!』
イーグルはチリ海軍に売却されたアルミランテラトーレの妹として就役するはずだった艦を空母として改造したものであったため、船体は旧時代のまま強大な装甲を持ち合わせている。そして武装は15センチ砲がケースメイト式に9門(片舷5門)とはいえ、その砲は使われなくなって久しく、既に傷ついた身だ。行動の自由も無く、勝ち目などありようはずもない
『俺たちを逃す気だ、畜生・・・!畜生!』
身動きのとれるナイアド自体には殆ど戦闘能力と言うものは残っていない。これではどっちが護衛しているというのか!
『誰か!バグパイプを持って来い!』
オークの心が流れる中、イーグルの姿は夜の闇の中に小さくなっていく
そして、勇猛なる鷹はアレキサンドリアに還っては来なかった。
感想・ご意見等お待ちしております
今回の変更点
・攻撃機数の変更と、経路記載
・英海軍の護衛艦の変更
・チェインニ少佐の登場
・イーグル戦没のプロセス変更
こそーり追加