第五話 ドムトゥムンの森
今朝の気分は最悪だった、頭はガンガンするし、喉はかわくし、レックはハイテンションで騒ぐし・・・
「レックもっと小さな声で話してよ、頭がガンガンするんだから。」
そう言って頭をおさえながら水を飲む瑠奈の耳元で
「だってコカトリスの目玉焼きだぜ〜めったに食えねえよ!」
と叫んだからたまらない、ますます頭が割れそうだ。
「コカトリス〜何そんな気持ち悪いもの食べてんのよっうぅっ」
「何だよルナ2日酔いか?情けねえなあ」
そう言いながらレックは20インチはあるその大きな目玉焼きをペロリと食べてしまった。
その様子を見てると瑠奈は吐きそうになった。
「ルナ、トプトク草を煎じた薬だ、2日酔いに効くから飲んで」
ジャンは心配そうにその薬を瑠奈に差し出した。
「わっ変なにおい・・・」瑠奈は顔まで近づけた薬を一旦テーブルに置いた。
「おい、嫌でも飲んどけよ、今日一日楽になるぜ。」とピノに言われ瑠奈は思い切って一息に飲んだ。
「にが〜い、何これ?」瑠奈はますます気分が悪くなった。
「まあ一時もすれば気分も良くなるぜ。」
ピノの言葉を聞いて瑠奈は早くそうなって欲しいと願った。
「ルナ、朝食はどうする?今は気分悪いだろうけど、何も食べないと後でつらいよ?」
ジャンが瑠奈の顔を覗き込んで話かけた。
「今食べたら全部吐いちゃいそうだよ。」薬の後味を水で流し込みながら瑠奈は答えた。
「確かに今食わせても吐くだけかもな、薬まで吐くと元も子もねえし、気分よくなったときに食えるようになんか作ってもらうか?」
ピノは自分のパンを食べながらテイクアウトのメニューを指差した。
「そうだな、何か食べやすそうな物を・・・」そう言うとジャンはカウンターの方に歩いていった。
朝食を食べている4人にブランディさんは
「そういやお前たち旅してるようだが何しに行ってるんだい?」と話しかけた。
ジャンは
「伝説の勇者と剣を探す旅ですが途中いろいろあって・・・」と答えた。
ブランディさんは驚いて
「伝説の勇者?そりゃお前、賢者サラマンが探してるってやつだろう?何でお前さん達が。」
「サラマンさんは亡くなりました、死ぬ間際にオレに探して欲しいと言ったので・・・」
そう話したジャンの目に今まで見たことない暗い影が瑠奈には見えたような気がした。
「まあ、サラマンもお前さんを見込んだってえことだ、大したことじゃあねえか!」
そう言ってブランディさんはジャンの肩をたたいた。
ブランディさんの店は1階が食堂2階が宿場になっている。
朝食を済ませた4人は2階へ行って旅の支度を始めた。金を払うときにブランディさんが
「新米のお嬢ちゃんにこれをプレゼントするよ。」
と言って瑠奈に一冊の本をくれた、本の題名には[回復の書]と書いてあった。
「ありがとうブランディさん」そう言って店を出ようとしたとき
「そういや兄ちゃん名前は何ってえんだい?」とジャンを見ながらブランディさんが言った。
「ジャンです」とジャンが答えると
「もしかしてエリファンテンのジャンってえのは兄ちゃんのことかい?」
「ええまあ」
ブランディさんは驚いたようなうれしいような顔で
「そうかいそうかい、オレはエリファンテンのジャンってやつに少なからず期待してるんだ、それが兄ちゃんならますます応援するね!」
苦笑いをしながらたいしたこと無いと言うジャンに
「応援してるぜ〜世界を救ってくれよ〜!」ブランディさんはいつまでも手を振りながら見送ってくれた。
「ジャンって有名人なの?」
代え用の馬の準備をするレックに瑠奈は聞いた。
「まあブランディさんみたいに旅人や冒険者の話を良く聞く人に知らない人はいないだろうね」
「なんで?」
「そりゃ一緒に旅してりゃ嫌でもわかるよ、それよりルナも手伝ってよ。」
レックは馬を瑠奈に近づけた。
「えっ馬なんて触ったこと無いよ!」それを聞いたレックは固まって
「触ったこと・・・無い?じゃあ、乗ったことなんて・・・」
「あるわけ無いじゃん」瑠奈のその言葉を聞いたレックはジャンの元に走り出し
「ジャンっこっこいつ馬乗ったことねえってよ〜」と悲鳴を上げた。
「えっ」ジャンとピノも固まった。
「だって、しょうがないじゃん馬なんて乗る機会無かったし、って言うか今日はじめて本物みたかも!」
しばらく黙っていたジャンが
「しょうがない、慣れるまでオレと一緒に乗せるしかないな。」そう言って瑠奈を抱き上げ自分の馬に乗せた。
しばらくすると瑠奈の気分もずいぶん良くなってきた、ブランディさんからもらった本を思い出しパラパラとページをめっくた。
「ええっとなになに、回復の魔法を使うには・・・」
「おいルナ、慣れないのにそんなことしてるとまた気分悪くなるぞ。」
そう言うジャンを無視して
「大丈夫、大丈夫、ええっと・・・」と本を見るために下を向いた時また気分が悪くなってきた。
「ほーら、だから言ったろう?」ジャンは瑠奈にちょっといじわるっぽく言った。
本を閉じてまわりを見てみると森の木々に太陽の光があたってキラキラしていた。
そんな光景を見ていると瑠奈はなんだか眠くなってきた。
ずいぶん眠っていたのか目が覚めると太陽がちょうど真上あたりまできていた。
それにしてもここの太陽はなんだか冷たいような光に見える、光を無理やり削られたような・・・
「目が覚めたのか?良く寝ていたから気分もだいぶ良くなったろう?」
太陽を見上げたところで目が合ったジャンが笑いかけた。
「うん」
こうしてみるとジャンはとてもきれいな顔をしていた、ブロンドの髪にブルーの目それから・・・
「んっどうした?」微笑むジャンに自分が見つめていたことがばれて瑠奈は下を向いた。
何だろうなんで私ドキドキして・・・と考えてる途中で
「腹減ったよ〜ジャン飯にしようぜ飯!」レックの叫び声に瑠奈の思考は吹っ飛んだ。
「じゃあ川沿いの大きな樹の下で食べようか。」
ジャンが答えるとレックはうれしそうに
「ひっるめし〜ひっるめっし〜」と叫びながら馬を走らせた。
きれいな小川のそばでの昼食、
ブランディさんの店で買ったサンドイッチやら野菜のフライは、彼の計らいで大量にサービスされていた。
「うっまそ〜」レックはその中でも大きなサンドイッチをつかんで頬張った。
「んめえ!まじうめえ!」おいしそうに食べるレックを見て
「本当においしそうだな、これ中身いろいろあるの?レックの食べてるのは何?」
サンドイッチを見回しながら瑠奈はたずねた。
「リザードとコカトリスのハムエッグサンドだよ!」
と元気良く答えたレックをジャンとピノはにらみながら
「おいそれは言うなって言っておいただろう」と小声で叱りつけた。
「・・・私やっぱりいらない。」瑠奈は後ろにのけぞった。
「大丈夫ルナ、こっちの小さいサンドは白身魚のフライのサンドとチキンのサンドだから。」
「白身魚ってなんの白身?」
「疑い深いなー、普通の川魚だよほらその辺に泳いでる。」
ジャンをまだ疑い深く見つめながら瑠奈はチキンサンドを手にした。
「チキンよりもこっちのコカトリスサンドのほうがうめえのに。」
そう言いながらレックは2個目のサンドをかじった。
食べてみるとブランディさんはやはり料理上手だったらしくチキンサンドも白身魚フライサンドもおいしかった。
食事も終わるころ森の向こうで女性の叫び声がした。
「誰か〜誰か助けて〜!」
ジャンはあわてて剣をもち、声のするほうに走って行った。レックも手に持ったサンドをもう一口だけかじって後に続いた。
ピノはなにやら道具を準備し始め
「おいルナ俺たちも行くぜ!」そう言って瑠奈に短剣を渡すと走っていった。
「まっ待ってよ〜」瑠奈もその後を追った。