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短編小説・完結済み小説

「サヨナラ」 という言葉は、僕の中に永遠に眠る。

作者: 尖角

 辛くも悲しくもない。


 君と別れた現実は、ただ 僕の気持ちを引き裂いただけ。



 夢が夢で終わる時、愛とは一体 何になる?



 希望を持って、君と共に前に進んだはずだった。


 だけど、君は僕に言ったんだ。 「サヨナラ」―――って、、、




 僕は最初、その言葉を聞き取ることができなかった。


 だって、僕達は相思相愛、自他ともに認める最高のカップルだったから。


 だけど、君は僕に言ったんだ。 「ありがとう」―――って、、、
















 ―――○―――●―――○―――●―――○―――●―――○―――
















君「なんで、あなたがこんなところに?」


 それは、僕と君とが別れる ちょうど一週間前の話―――。


僕「ははっ、何を言っているんだよ?」

 「君がこの間 僕と“デートをしたい”って言ったんだろ?」

 「だから!ほら!」「行くよ!?」


 僕は君の家に、記憶喪失である君を迎えに行った。


 そして、強引に見えるかもしれないが、混乱している君を僕は外に連れ出した。






 ――君が記憶喪失になった理由。


 それは、車との接触事故が理由だ。


 相手が車、君は歩き。 あたり一面は真っ赤に染まる。



 まぁ、それはある意味 小説や漫画を読めばどこにでもあるような話で、記憶喪失になった子が記憶を取り戻し、それを支えてくれていた主人公とめでたしめでたし的なハッピーエンドで終わるのが大体の展開であるが、現実はそうもうまくはいかない。


 君の場合、半年前に事故を起こしてから、記憶を約一日しか保たせることができなくなってしまった。


 それが今の今まで続き、僕は君をずっと支えることに。


 だけど、小説や漫画のように、君は全然よくならない。


 でも、別に僕からしてみれば、新たに築いていく思い出を君が覚えていることができないのは寂しい話だけれど、交通事故で君が死ななかったことを思えば、そのくらいヘッチャラだ。


 だけど、君は違うらしい。


 君は時々 涙する。 「私はなんで・・・」―――っと言いながら、、、


























 残念な話だが、そんな君に僕は「落ち込むなよ・・・」「いつかよくなるって」というありきたりの言葉しか声をかけることができなかった。


 辛くも悲しくもない。 ――それは僕が思うこと。


 辛くて我慢できない。 悲しみが込み上げてくる。 ――それは君が思うこと。


 僕は最低な人間だ。 君の気持ちに気付かずに、僕は君を壊し続けた人間だ。






 夢が夢で終わる時、愛は破壊的行動に変わる。


 それが、その時の僕の行動を表した言葉だろう・・・。


 だけど、君も僕に対してある行動を取るのである―――。


























君「ねぇ、私っていつから記憶がないの?」

 「ねぇ、私っていつからあなたに迷惑をかけてるの?」


 ――それは、君が別れる前日に問うたこと。


僕「君の記憶がないのは半年前から―――」

 「君が迷惑をかけているのは・・・」

 「そうだな、今さっきからかな??」


 そんな意味の分からない僕の答えを聞いて、君は不思議そうに首をかしげた。


僕「だって、君が“迷惑”なんて考える必要なんてないじゃない?」

 「そもそも、僕と君とは一心同体のようなものだ・・・」

 「だから、僕が困った時は君に助けてもらう・・・」

 「そして、君が困っている時は僕が全力で助ける・・・」

 「そんな僕が好きでやっていることを、君に“迷惑かな?”って心配される方が、僕にとっては“迷惑”だよ??」


 そんな意味の分からない僕の言葉を聞いて、君は疑問符を頭の上に並べた。


僕「だって、僕は君とずっと一緒に過ごしていたいんだ・・・」

 「だから、君は自分のできることをすればいい・・・」

 「君ができないことは、僕が手伝うから、一緒に乗り越えよう??」

 「そして、二人の力で無理な時は、他の人の力も借りよう??」

 「そうすれば、どんなことだって乗り越えていけるよ!!!」


 そんな風に君に言うと、君は“ニコッ”っと笑ってくれた。


























君「ありがとうね、ごめんね、大好きだよ?」


 珍しく君の方から口を開いたと思ったら、突拍子もない事だった。


 ――それは、僕と君とが別れることになった日の、最初の言葉。



僕「急にどうしたんだよ??」

 「なにかあったのか??」


君「別に何もないけれど、それが辛いの・・・」


 最初 僕には、その言葉の意味が分からなかった。


 だって、辛いのは僕じゃない。 君の方なんだから。



君「何も思い出せないことが辛い・・・」

 「多分、昨日もあなたは私の家に来て、私と話をしてくれた・・・」

 「だけど、私はその話の内容も、あなたが家に来てくれたということも覚えていない・・・」

 「それが、私には辛いのよ・・・」

 「あなたは私を覚えていてくれる・・・」

 「だけど、私はあなたのことを・・・」 ――そこで、君は涙した。


 いつもよりも大粒の涙。 君ななかなか泣き止まない。


 だけど、僕が何を言ったって、その言葉は君の耳には届かない。


 だって、辛いと思っているのは僕なんかじゃない。


 本当に辛いと思っているのは、君なんだから・・・。


 だから、君の辛さをわかろうと思っても、僕は完全にわかることができない。


 その胸の痛みも、その胸の(つか)えも、本人である君以外、完璧に理解することはできない。


 だから、僕は君に何も言えなかった。


 君の心に響かせることができなかった。






 そして、君は泣き止むと同時に僕に言った。


君「ありがとう、サヨナラ・・・」

 「私は一人でも生きていけるから、あなたはあなたの為に生きて?」

 「私はあなたと今まで過ごすことができて嬉しかった・・・楽しかった・・・」

 「それは思い出せない記憶の中でも、同じ気持ちだったと思う・・・」

 「本当に今までありがとう・・・支えてくれてありがとう・・・」

 「そして、これからは別々の道を歩んでいこう?」

 「お互いの幸せの為に・・・お互いの夢に向かって・・・」






 ――君は僕に、そう告げた。


 僕が壊していたと思っていた君に、僕は壊された。


 だけど、それはお互いに相手を思いやってのことが理由で。


 大好きだった。 それは君も僕も同じように言えること。


 だけど、違うこともあったはずだ。


 例えば、心。 それは感じ方の問題で、本人と他者とは想いが違う。


 例えば、夢。 それはいつも同じではなく、コロコロと自由に姿を変えている。










 ――愛が愛で終わる時、夢は夢であるように、


 ――僕が無意味で終わる時、君は希望に姿を変える。

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― 新着の感想 ―
[一言] 尖角さんの小説読み始めて泣き虫になったのは気のせいでしょうか…?w どうやったらこんな上手に模写できるんですか? ─うらやましいです…
[一言] 切ないです;; 物凄く、切ないです。 あの言葉が、そうなるとは。 お互いがお互いの事を想って見出した二人のこれからが、道を違える結果になってしまうなんて。 どちらの立場も、本当に辛いです。…
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