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8.神よ!

「ゼクトールは今、様々な問題を抱えております。それら諸問題を解決するためにも、この国には王が必要なのです」


 残っているのは、今喋っているジェベルと、後ろで控えるミウラだけだった。


 ステーキ問題の後、各閣僚は、おのが仕事へと散っていった。

 授業が始まったのでいそいそと教室へ向かう女子校生を連想させるその様は、ゼクトールの将来をそこはかとなく不安にさせるものだった。


 桃矢にだってわかる。常識的な問題。急な政変である。通常の仕事以上に緊急の仕事が降って湧いたのだ。

 そして、国を運営する新しいスタッフは、慣れない上に経験も浅い。おまけに若すぎる。一分一秒が惜しいはずだ。


 新しい国王に、国民はお祭り騒ぎで歓迎していた。めでたいことだ。政府もそれを奨励している。

 桃矢はちょっぴり心苦しかった。一泊二日の王では、国民を騙すようなものだからだ。


「国民は、トーヤ様を新国王としてお迎え致しましたことを心の底よりお喜び申し上げております。これは紛れもない真実です。しかしまた、国民は、王家に対して神聖な格式を求めるものでございます」


 ジェベルは、眼鏡の位置を指で直した。


「なんか、授業受けてるみたいね」

 桃果の感想は桃矢の感想でもある。


 年齢と風貌からいって、新任の女教師で通りそうなジェベル。……水着だが。

 一方、学生服のままの桃矢と桃果。こちらはまぎれもなく現役学生である。


「即位式、つまり戴冠式を迎えて、初めて王となられるもの。逆に言えば、戴冠式を迎えなければ王として認められない、ということでもあります」


 今の所、なんか意味深な感じがする。思わずノートに取りたくなってしまった桃矢である。


「時間は貴重です。長旅でお疲れのところ真に申しわけございませんが、トーヤ様におかれましては、これより即位の式を受けていただきます」


 ますます、逃げづらくなってしまった。第三者的立場の桃果は、らんらんと目を輝かせている。異常なまでの乗り気である。天井を仰ぐ桃矢。


「なんつーか、こう……神に祈りたい心境になってきたんですが」


 桃矢が呟く。ミウラとジェベルは計ったように互いの顔を見合わせた。


「それはちょうどよろしゅうございます」


 ジェベルが慈母のような笑みを浮かべた。何がちょうど良いのかわからないが、美人が自分に笑顔を向けてくれるのは男として嬉しい。


「王位を授ける役は、ゼクトールの国教であるヌル教の神官長です。これから向かう先ですので、ついでにお祈りなされてはいかがでしょうか?」


 桃矢の笑顔が固着する。今まで桃矢の側についていた神が、敵に回った瞬間であった。


「ジェベル様。トーヤ様からみればヌル教は異教です。トーヤ様に宗旨替えを願うのも無茶なお話ではないでしょうか?」


 ミウラが、その微妙な空気を感じ取った。方向が間違っているが。


「それは想定外でした。しかしこれは大問題です!」


 桃矢の苦悩をよそに、別問題で考え込む二人の麗しき乙女。自分のことで悩んでくれる美女二人という構図も、それはそれで、そそられるものがある。


 そういえば、二日間限定だけど、この二人の生与奪権は自分にあるんだっけ――なんて嬉し恥ずかしな妄想が膨れあがってくる桃矢。ますます進退窮まってきた。 


 ああもうどうしたらよいですか神様? って、神は敵だったし。


 まてまて、僕は何処へ行こうとしているのか? 初心は何処へ行った? しかし、この立ち位置を捨てたくない。

 人、これを堂々巡りと呼ぶ。


 悩んでいる桃矢に白い腕が伸び、揺さぶった。


「安心して、二人とも! 自由と生死を縛る強制をしないかぎり、日本人はどんな神様にだって順応できるという属性が、生まれながらにデフォルトされているのよ!」


 桃矢の胸ぐらをつかんで引きずり回しながら、桃果は拳を天に突き上げる。脳を揺すられグダグダになっていく桃矢。


「あ、あの、桃果様! 神という存在は魂に直結するもので、そんなに簡単には……それより、トーヤ様をそんなぞんざいに扱っては!」


 ハラハラしながら、及び腰で桃果を制止するジェベルとミウラ。


 特に、唯一神を信奉する者にとって神とは、その辺の日本人が考えているような生半可な存在ではない。

 日本人が「神に誓って――」と言えばたいていの場合、嘘偽りを糊塗する代名詞となっているが、彼女らにとっては命を賭して守るための代名詞なのである。


 ゼクトール人である彼女達にとって、宗教を変えることなどあり得ない。そして、万が一、信じる神を変えるということは、人生そのものが変わってしまう事。いや、それ以上の大事件なのである。


 よって、桃果の言っていることは、彼女達にとって悪い冗談以外の何物でもない。


「じゃあ……。あたしなら、桃矢を表面上でも宗旨替えさせることができる。どうよ?」


 言いながらも桃矢を揺さぶり続ける桃果。桃矢は、自分の脳がプルンプルン揺れているのを実感した。


「お願いいたします、桃果様!」


 桃矢は、飛びそうな意識の中、最敬礼をするミウラとジェベルの姿を見たのだった。

次回、9.異空間感覚


ナニなナニ、登場の予定。



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