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5.最終防衛ライン

「疑問はごもっとも」

 艶然と笑うジェベル。意味無くデヘヘ笑いを返す桃矢。桃果に足を踏まれた。


「ゼクトールは、主立った産業のない小さな島国です。小島嶼開発途上国として、国連に認定されています。政府財源は、国民の出稼ぎによる送金に頼っている次第です」


「だから、なんで若い子ばかりが……あ!」


 あることに気がついた桃矢。そういえば、沿道で迎えてくれた国民の皆様方。全て女性ではなかったか?


「まさか?」

 仮説が確信に変わる瞬間。


「まさか成人男子全員が、海外へ出稼ぎに出ている……とか?」

 いいところを奪い去ったのは桃果。彼女の顔に張り付いた笑みが、紙のように薄っぺらい。


「その通りです。我がゼクトールでは、一家を支えるのは男の仕事。そしてゼクトールには主立った輸出産業がございません。ゆえに労働可能な男子全員、家族を残して諸外国へ出稼ぎに出向いています。ゼクトール人は実直勤勉、そして忠実な国民性で有名なので、引く手あまた。最近は主に中東方面での雇用が増えています」

 ジェベルは肯定した。


 他の委員長達も頷いている。彼女たちの父や兄は、遠い異国で身を粉にして働いているのだ。

 そして、年老いた祖父母のため、ある者は妻や子供達のために、またあるものは母や妹たちに、稼ぎのほとんどを送っているという。


「立派ね! あたしの両親なんか、恥ずかしくて語れないわね。家族のために歯を食いしばる。美しいわ!」

 自分の世界に入り込む桃果。遠い一点を見つめている。


「まあ……、ここよりは美味しものや面白いものがあるので、それほど歯は食いしばっていないようですが」

「美しいわ!」

 現実から目をそらし、オリジナルストーリーを完成させる桃果であった。

 

「そしてもう一つ。ゼクトールの政治的慣習が関係します」


 ジェベルの次の言葉を目で促す桃矢。


「ゼクトールの政治体系は、絶対君主制。王の権限は絶大です。よって、ゼクトールにおける閣僚とは、王の指示の元、各部門での実行機関にすぎません。つまり委員会。そして、国王が亡くなった場合、政治家と呼ばれる者達は、一斉に引退します」


 大昔、日本や中国では、大王が死ぬと側近の者や使用人が殉職させられる。そんな話を思い出した桃矢。あれは大昔の風習。


 ジェベルは言葉を句切ったまま、桃矢と桃果を交互に見ている。二人の理解度を測っているようだ。

 二人ともここまで付いてきていると判断したのだろう。ジェベルは、話を続けた。


「貴族と名乗るのはおこがましいですが、私たちは家ごとに各委員会を受け持っています。そして代々、長の地位を受け継いでいるのです。たとえば、我がオルブリヒト家が全委員会をまとめる、いわば委員会会長の家柄。そしてミウラのヴァイツ家が戦人の長、マープルのミートン家が王家の倉を預かる家柄」


 桃矢は、再び日本の歴史をひもといていた。大和朝廷の時代、家々によって、ある程度担当する役職が決められていたような?


 いつものように桃果に視線を向ける桃矢。くりっとした可愛い目を見開いてジェベルの説明を聞き入っていた。桃果も驚いているようだった。


 違う! 彼女は、初めて聞くシステムとして驚いているのだ! 桃矢は、桃果は歴史がからきし駄目だったのを思い出した。


「国民総所得の低いゼクトールでは働き出す年齢が低いため、法律では十三才で成年と見なされます。ついでに言いますと、わたくしの祖々母は、十四才で宰相に就任したという経歴の持ち主です」


「ま、まあ、国の事情だよね」


 一つの謎は解けた。のこるはもう一つの謎。

 後で聞きにくいこと。いまなら勢いで聞ける気がする。


「その辺は理解できましたが、……みなさん水着なのは何故?」


 漆黒の水着を着ているジェベル。あきらかにサイズが一つ小さい。

 砲弾型に突き出したバストと相まって、勝手に視線が首下に移動するという男の(さが)に、さっきから桃矢は苦しんでいるのだ。


 それだけならまだしも、タイトミニスーツを着込んだミウラ以外、同年代の女の子が下半身水着姿である。何人かはハイレグだ。

 おまけにゼクトール女性は、美人ぞろいでナイスバディ!


 間違いを起こしそうでとても怖い。それ以前に桃果の仕置きが怖い。


 不可侵の領域へ足を踏み込んだ感の桃矢。いろんな意味で緊張している。


「桃矢、鼻と唇の間が長くなってるわよ」

 桃矢が鼻に手を当てる。それを見て、またもや笑いを堪える桃果。


「これはゼクトールの風習です」

 ジェベルの答えは簡潔だった。


「元々は宗教上の理由からですが、王が変わると、みな一斉に衣を替えるのです。制服のデザイン選択は、新しい王にまかされます。つまり王の好みでいろんなタイプの制服が生まれるのです。トーヤ様の代に変わった今、制服もトーヤ様の趣向に合わせて替えるのが習わしです」


「え! じゃ、その水着は先王の趣味?」


 にこにこ笑いながら頷くジェベルの水着が黒光りしていて眩しい。

「先々代は、上がセーラーで下がマイクロミニという制服を採用されていたそうです」


 遠き過去に、勇者を見る桃矢。


「さて、トーヤ様におかれましては、どのようなデザインがお好みでしょうか? 全員の分を揃えるには時間がかかります。お話ついでに、今ここでお伺いしたいのですが……」


 ジェベルの言葉に、桃矢は唾を飲み込んだ。

「ど、どのようなモノでも?」


 これはアレだ。服という文化を手に入れた代わりに失った物を――。


「王の命令は絶対です。死ねと言われれば、喜んでこの命、捧げましょう」


 ミウラが直立不動の姿勢で宣誓する。後ろに控える家臣団の女の子達も首肯してる。


「たとえば、……この国、暑いしね。……自分の好みというよりは、みんなの快適性を第一に考えてるんだけど……いやぁ暑いよね? 熱帯だし。……そこで提案なんだけど……」


「なんなりとご用命下さい!」

 真剣に受けるミウラ。きりりとした眉がりりしい。


「それじゃ、上半身裸にな――」

 そこから先は、桃果にネックブリーカーをかけられたので喋ることができなかった。


「乳房を出すのは恥ずかしい事ですが、王の命令とあれば仕方ありません。制服代が安上がりで済むのが救いです」


 平然とした面持ちで肩から水着をずらしだすミウラ。ジェベルやノア達も頬を朱に染めながら、次々と肩を出しはじめた。


「ストップ! ストップです! 命令です、王の訂正命令! 今のはナシ!」


 ネックブリーカーを解かれた桃矢。解かれた意を解し、必死で訂正の弁を振るう。


「今のままで変更無し! 僕と先代国王は趣味が一緒みたいですぅっ!」


 泣きながら、しかし、ギリギリのラインだけは守り通した桃矢であった。


次回、6話.記念写真


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