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4.水着

 底抜けに青い空。

 暖かいを通り越した、あきらかに熱帯性の気候。

 やんわりとした風に漂ってくるのは潮の匂い。


 暑い。いや熱い。


 ギラギラという擬音でしか表現できない、強力かつ容赦ない太陽光が恨めしい。

緩やかな風が吹いてなかったら、とても立ってなどいられない。


 空港は立派だった。


 旧日本軍が作ったという、大型旅客機も発着可能な滑走路が一本。一本だけ伸びていた。


 随分金がかかっているらしく、夜間発着も可能とのこと。

 後は小屋が一棟と、てっぺんに吹き流しを一本揚げた管制塔がそびえ立っているだけ。


 移動時間と時差の加減もあるのか、ここゼクトールは、朝の早い時間帯だった。


「ビバ、南海の孤島」

 桃矢の歓声は生ぬるかった。ご陽気な単語に反比例して、勢いがない。


 一日程度の再会なのに、久しぶり感の地面。よく日に焼けたコンクリートの感触を通学靴の底に感じながら、桃矢は大地を踏みしめた。


 目の前に広がるこの光景。桃矢は似たような光景を何度かテレビで見た記憶がある。

 外国から要人を迎えるときの、あの光景。あの式典。


 出迎えの音楽隊が、ゼクトール国歌らしき、のんびりした調べを演奏している。


「常夏のー、国、ゼクトぉルぅー。南海ぃにぃ-、浮かぶ島ぁー」


 桃果が即興で詩を乗っける。四拍子で構成された実に平和な国歌だ。

とても桃果が主張するような戦闘国家には見えない。 


 が、なにか違和感を感じる。


「なに? やっぱ暑いから?」


 楽団員は、全員女の子。中学生くらいか? まあ、それはそれでアリだろう。

 問題としているのは服装だ。上半身は白いセーラー服。まあ、これはこれでアリだろう。


 解せないのは下半身。スカートもズボンもはいてない。

 全員ハイレグの白い水着。……と、白のブーツ。


 この地方の風習なのかもしれない。なにせ暑いからね……周りは海だし。

 桃矢は結論づけた。これは南国ゼクトールの風習だ!


 ハワイの空港で出迎えてくれるお姉ちゃんは上半身ビキニの水着じゃないか。なら下半身水着の国だってあるはず。ワンピースの水着ってのが健康的じゃないか!


 いやぁ、ゼクトールってさすが南国だなぁ!


 ……なわきゃねえだろ!


 桃果はどう受け取ったのだろうか? 後ろを歩いているはずの桃果を振り向く。

 目が……、桃果の目がわずかに細められていた。細めた猫の目に似た形。


 だめだ! 完全にゼクトールを気に入っている。


 これは……桃果を置いて、一人脱出という選択肢も。……あるいは。


 そんな風に考えていたら、桃果が手を握ってきた。

 色っぽい握り方ではない。あえて言うなら手錠的な握り方。


 桃果の顔を覗き込んだ。逃げたらコロスと彼女の目が言ってる。


「ゼクトール王宮へ向かいます。この国の重鎮達が、首を長くしてトーヤ様をお待ちいたしております」


 よぼよぼの爺様が運転する、オールドファッションのリンカーンに押し込まれる桃矢達。


 沿道には大勢の人が繰り出していた。

 手に手にゼクトール国旗と日の丸が握られ、ハゲシク振られている。熱烈な歓迎である。

 桃果は嬉しそうに手を振り返していた。


「ほら、桃矢。ボサッとしてないで手を振ってあげなさい!」


 気乗りしない表情で手を振る桃矢。ボーとしていた桃矢だが、ふと気付いた。


 道々で旗を振る人々。日本の夏とそう変わりない服装。桃矢と同世代の女の子が、黄色い歓声を上げている。一人や二人ではない。三桁に上る数だ。


 桃矢の集中力が、ピーキーかつクイックレスポンスで上昇した。あらためてよく観察すると、グラマラスな大人のお姉さんも多数混じっておられた。


 旗を振るたび、揺れるバスト。ワンアクションごと、くねるヒップ。柔らかそうな太股。


 ……いや、健康的な意味で。


 水着を着ている女の子はいないが、みな薄着である。暑いから当然だ。

 俄然、男前の顔をする桃矢。手の振りも、きびきびとしたものに変わる。


 ……いや、健康的な意味で。


 視線を感じて振り返ると、桃果のニヤニヤ笑いがあった。

 これはまずい! このままでは、しめしがつかない。


「いや、ほら、別に国王になることを認めた訳じゃないからね。だってこんなに歓迎されて、いい加減な態度できないでしょ? いや、健康的な意味で!」


 たまらず桃果が噴きだした。桃矢の沽券が回復するのは、遠い未来のようだ。







 一分二十五秒のドライブが終わり、運転手がプルプルした手でドアを開ける。

 降り立った先に構えているのは白亜の――。


「ここがゼクトール王宮です」

「まぁ、予想は付いていたんだよな」


 ミウラが案内してくれたのは、築五十五年、木造二階建て。


 白の剥げかけたペンキを基調とした外観に、いろいろと飾り的な装飾が施されている。


 田舎の村役場より、よっぽど金のかかった建物だ。

 ありていに言って、桃矢が住んでいた土地の市役所より劣る。


「間を取って町役場だな」


 桃矢は、なにもバッキンガム宮殿やノイシュヴァンシュタイン城を想像していたわけではない。が、やや撫で肩姿勢で歩いていた。


「お城ってイメージじゃないわよね?」


 桃果も、同じことを言いながらミウラの後について歩いていく。


「狭いながら、王宮には美術館や図書室、卓球場などが入っております。もちろん、各行政機関も全て収納しています」

「卓球場の意味が解りませんが、なるほど立派ですね」

「ありがとうございます。では、ゼクトール政府の重鎮達を紹介いたしましょう!」


 王宮玄関先で桃矢達を出迎えたのは、水着姿の九人の女の子達。

「えーと……」


 言葉に詰まっているのは桃矢だけではない。桃果も黙り込んでいる。むしろ、声を出せただけまだましである。さすが男の子。


 ゼクトールは混血が進んでいるのだろう。いろんな人種が混じっているようだ。

 その中で、黒縁眼鏡をかけた、一番背の高いお姉さんが一歩進み出た。


「わたくしはジェベル・オルブリヒト。日本では総理大臣に当たる宰相を勤めさせていただいております。トーヤ様は戴冠式を済ませておいでではありませんが、事は急を要します。トーヤ様のお立場は、これ以後、事実上の国王であらせられます」

  

 明るいブラウンの髪を後ろに流した大人のお姉さん。透けるように肌が白い女の人。背が高く胸が大きい。くびれたウエストに張りのある腰部。目の置き場にやたら困る。


「よろしくお願いいたします、トーヤ様」

「あ、よろしく願いいたします」


 後頭部をガリガリ掻く桃矢。アガっているのは火を見るより明らか。


 しかし、一国の首相にしては若すぎないか? 若作りをしているようには見えないが。


「失礼ですが、ジェベルさんはおいくつですか?」

 堂々と女性に年を聞く桃矢。


「二十四才です」

 にこやかに答えるジェベル。やはり若い。若すぎる。


 これを機にしてゼクトール政府重鎮達の自己紹介が始まった。


「国土交通委員長のエレカ・フリフラ! 今年で十八っス……です!」

 ショートの黒髪と漆黒の瞳が白い肌に映える。


 つぎの子は、無言で頭を下げただけだった。青白い髪がゆらりと揺れる。

「あ、この子は文部科学委員長のミラ・ロコモコ。十七才。ほんと無口で困るよね」

 ミラの頭を平手ではたくエレカ。はたかれているのに、まったく無関心顔のミラだった。


「農務委員長を拝命しました、ノア・モフモフ、十三才です」

 長く垂らした三つ編みが可愛い。身長も胸も小さいながら引き締まった体つき。


「ががが、外務委員長のサラ・プワプワ、十三才です。よよよ、よろしくお願いします」

 おかっぱ頭で、接触感覚が柔らかそうなイメージの幼児体型。


以後、十八歳の商務委員長ジムル。十六歳の財務委員長マープル。十五歳の法務委員長アムル、と続いていく。


 ニコニコしている桃矢だが、実のところ、内心、ものすごい疑念が渦巻いている。

 居並ぶ委員長達の共通点を桃矢は発見したのだ。多分、桃果も気付いているだろう。しかしこれほど聞きにくいものはない。


「そして最後に、国防委員長を務めさせていただきます、ミウラ・ヴァイツ。十七才です」


 ミウラの挨拶がとどめとなった。桃矢は、たまらず疑問を口にした。

「ゼクトールの閣僚には、年齢や性別に制限があるのですか?」


 九人の委員長達、すべてが女子。宰相のジェベルが最年長。でも二十四才。 

 OLが一人。高校生が五人。中学生が三人。平均年齢、十六.八才。


 つーか、日本の法律では、ジェベル以外全員未成年。

 彼女たちが自分に仕えてくれる。嬉しい! でも不安!


 低い次元の狭間で揺れる桃矢であった。



次回、5.最終防衛ライン。

なにが最終防衛ラインなのかw


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