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36.誰? 誰なの?

「ミウラさん、なにを?」


 ミウラが何を言っているのか、桃矢にはわからなかった。


「ゼクトールの銃器保持率はアメリカを上回っています。一般国民がそれぞれの得物で戦いを仕掛け、時間を稼いでくれるでしょう。そしてそれは、全て打ち合わせ済みの事柄です」

 

 淡々と話すミウラ。だが、顔色が徐々に暗くなっていく。


「トーヤ陛下。皆が時間を稼いでいる内に、ここから落ち延びてください」


「何いってるんだよミウラさん、僕は最後まで一緒にいるよ! これは国王命令だからね!」


 桃矢が怒鳴る。ミウラはゆっくりと首を振った。


「計画性のない命令には従えません。トーヤ陛下は勢いでおっしゃっているだけ」


 ミウラだけでなくジェベルも強い意志を目に浮かべている。

 他の委員長も、ミウラとの話はついているようだった。


「そうね、ミウラさんの言うとおりだわ。この中で一番危ないのは桃矢よ。ケティムに捕まったら命はない。逃げられる内に逃げた方が良いわ」

 桃果までが同じことを言う。


「桃果様もご一緒に落ちていただきます」

 ミウラが桃果に向けた言葉は冷たい。


「え?」


「ここに一枚の契約書があります」

 桃果に有無を言わせぬミウラ。厳重に封をした書類入れを手にしている。


「先王ゼブダ様が勝手にサインした契約書です。先代の国防委員長が、命がけで取り上げた書類です。契約先はアメリカのオイルメジャー、エリミネタ・ボネビル社」


 先代の国防委員長とは、ミウラの母のことか? 命がけとはどういう事か?


「内容は『ゼクトール領内の地下資源を格安で譲り渡す』となっています。これだけ言えば、桃果様なら有効活用法を見つけていただけると信じていおります」


 書類入れを桃果に差し出すミウラ。

 桃果に反論される前に、矢継ぎ早に言葉を繋ぐ。


「わたくしの戦争継続計画以外に、良い計画案があればおっしゃってください。ただちに検討に入ります」


 今回の戦争はゼクトールとケティムによる油田の利権争い。

 それをアメリカとケティムの争いに衣替えさせようというのだ。


 ただの高校生にどこまでできるかわからない。でも、他に名案などありはしない。


「桃果様はゼクトール国民です。国民である以上、国のため、義務を負っていただきます。それは辛いことです。いえ、茨の道でしょう。でも、もはや我らにはトーヤ陛下と桃果様以外に頼る道はありません」


 ミウラ、うまいことを言う。と、わかりつつも、桃果は黙らざるを得なかった。


 そしてミウラは桃果から桃矢に視線を移す。


「旧日本軍とはいえ、日本がゼクトールの王女を拉致した史実。その事による日本政府との取引の話は以前お話致しました」


「えっと、僕がゼクトールの国王になるための出国に関する取引だよね?」

 先回りして答える桃矢の話に頷くミウラ。


「取引はもう一つありました。万が一の際、日本国民として桃矢様を守っていただく事」


 大きな、本当に大きな波に呑まれようとしている。

 でも桃矢は、乗り越える気迫に満ちていた。


「船の用意はできています。小さな帆掛け船ですが、東の沖合に遠洋漁船が待機しています。そこで乗り換えて他国へ入ってもらいます。我々にできるのはそこまで。後はお二方の器量次第。……御武運を」

 ミウラの長い話が最敬礼で終わった。


「これを渡す時が来るとはね。ま、ある程度予想はしてたんだ。……結構イケると思ってたんだけどな!」

 そう言ってバックパックを二つ、放り投げたのはエレカだった。


「中は、ちょっとしたサバイバルセットです。わたくしが焼いたクッキーが非常食として入っています。もちろん、お二方のパスポートも入っております」

 にこやかに笑うのはジェベル。


「トーヤ陛下、どうかゼクトールをお願いします」

 胸の前で、祈りの形に手を組んでいるのはノア。


「もし、途中でエンスウに会ったら、手駒として存分にお使い下さい」

 サラが頭を下げる。サラサラの髪が顔に流れる。


「わたしが愛用している日焼け止めクリームを入れておきますね」

 バックパックをごそごそとかき回すジムル。


「もう少し、トーヤ陛下と一緒の時を過ごしたかったです」

 潤んだ目で桃矢を見つめているのはマープルだ。


「ず、ずるいです。それは告白です。だったらわたヒャ――」

 大事なところで舌を噛んだのは、あわてん坊のアムルだった。


 イルマは、何も言うことがない、とばかりに、意図的に桃矢と目をそらしていた。


 少しの間だったのに、みんなの性格を覚えていた……。






 もう一人いた。一番前の席に陣取り、ずっと一人で機器を操作していたミラ。

 結局、一度も喋ったこととのない無口な少女だった。

 今は、正面の大型スクリーンをぼーっと見つめている。


 最後まで一言も言葉を交さないのは嫌だ。桃矢は彼女にも別れの言葉をかけたかった。


「もう一度、ミョーイ島を見ておきたい。映し出してくれないか? ミラちゃん」

 最前列のコンソールに座るミラに向かい、桃矢は命令を出した。


 大型ディスプレイを見つめていたミラは、ゆっくりと振り返り、うす水色の目で、黙って桃矢を見つめていた。


「あのー……、ミラさん? 今まで通り操作してくださりませんか?」

 言い方がまずかったのかな、と思った桃矢。無意識にへりくだってしまった。


 ミラが、ゆっくりと、そのちいさな唇をひらいた。


「わたし、今まで操作なんかしてません」


 桃矢は、初めてミラの声を聞いた。

 意味を理解するまでに、時間のかかる一言だった。


「……あいゃうえぃ」


 桃矢の頭頂で毛が一本揺れていた。

ではいったい誰が!?

(わざとらしい)


次話「秘匿戦艦(藁」

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