33.空襲! ゼクトール宮殿、被弾!
「結局、たいしたことなくてよかったわね」
司令部に帰る途中。桃矢の後ろで、頭ごなしに話しかける桃果。
ママチャリを漕ぐ桃矢の後ろに乗っかっているのだ。
「レイアちゃん、明るい子だったよね。アーヤさんに頭殴られてもヘラヘラ笑ってたし」
レイアの放った弾丸は、正確に機銃機関部を撃ち抜いていた。
フリゲート側も反撃したが、漁船には当たらなかった。
アーヤの操船技術が優れていたのと、ケティム側に怪我人がでなかったことで射手が狙いを甘くしたのだろう。
わざわざ見舞いにきた国王に対し、自慢げに笑って話すレイア。
対して、不手際を平謝りに謝るアーヤ。
彼女はこの国でも珍しい、国際基準の常識を持った部類に入る人だ。
自分たちが放った一撃が、対ケティム戦争の第一打になったと理解していたからだ。
ところが、レイアをはじめ村人達は楽天的だった。「だからどうした?」と言う。
国を滅ぼそうとしているケティム相手に、銃を向けて何が悪いのか? と言う。
敵だって腹を立てれば銃の一つでも撃つだろう。
当たれば死ぬ。当たらなければ死なない。だからなんだと言う。しごく当然のことではないか、と。
ゼクトールには川がない。飲料水は雨水に頼っている。雨が降らなきゃ乾きで死んでしまう。空を相手に喧嘩はできない。
なるようにしかならない。
なすがままに目の前の事象を受け入れる。先のことを考えていても仕方がない。
だって、考えたって雨は降らない、降るときにしか降らない。
楽天的というかゼクトール的というか。
笑いが込み上げてくる桃矢。ジェベルさんの、あのお気楽さは国民性によるものかと。
緩みかけた気持ちを引き締め、ペダルを漕ぐ足に力を入れる。
司令部まで、あと少しの距離。
「急いで!」
声に身体が反応し、ママチャリを漕ぐ足に力がはいる。
……桃果の声じゃない。
「あれ? 今の、誰の声?」
まるで――。
三半規管まで揺さぶる空襲警報のサイレンが、全島に長く鳴り響いた。
いや、違う! 全ての思考を中断させる、あの音! サイレンの音ではない!
遠くから聞こえる空なりの音だ。
精神にプレッシャーがかかる。
忘れもしない、フランカーの排気音!
「とりゃっ!」
気合い一閃。ママチャリを立って漕ぐ桃矢。グンとスピードが上がる。
指令部までもう少し。最後のコーナー、車体を倒しながらハイスピードでクリア。
しかし、ジェット機関にはかなわない。右上がりに大きくなってくる排気音。
司令部が見えた。衛兵の女の子が、司令部の扉を開けて待ってくれていた。早く早くと、必死の形相で手招きしている。フランカーの排気音はすでに爆音となっていた。
「間に合ったっ!」
ママチャリごとドアをくぐる桃矢。リアタイヤをロックさせ、斜めに傾ぎながら停止する。扉は既に閉じられ、ロックが掛けられるところだった。
鍵を掛けたからといって対地ミサイルが当たらないとは限らないが……。
今度は自分の足で通路を走る桃矢と桃果。
「桃矢様、ご無事で!」
ミウラが階段から顔を覗かせた。
「お帰りが遅いので、心配していたところですよ。お疲れでしょう? ココナッツジュースの用意ができております」
ジェベルの調子に感狂う桃矢。彼女の性格は、ゼクトールではありふれたものなのだ。
その時であった。
フランカーから発射された二発の空対地ミサイルが、ゼクトール王宮に命中。
木造建築物、築五十五年の王宮は、文字通り、木っ端微塵に砕け散ったのであった。
次話「中央戦闘指揮所」