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29.ゼクトール内閣。第三回国防会議。南国気質編。

 最初に口を開いたのは桃果だ。


「まあ、なんていうの? モノはとりようよ。これで、全世界がゼクトールの直面する危機に対して目を向けてくれるってもんじゃない?」


「僕の事も、全世界に……。僕にも僕の事情ってもんが……」 


 テーブルに手をついて肩を落とす桃矢。その姿を見てニヤニヤ笑う桃果。


 はっとして、顔を上げる桃矢。何かに気付いたようだ。


「このことは国民の皆様方にはご内密に――」

「申し訳ありません。今頃は、街頭宣伝車にて島中に告知されているものと……」

 ミウラが眉を寄せ、すまなそうにしている。


「街頭宣伝車?」

 桃矢は、耳慣れない言葉に聞き直した。


「海外のニュースで、特に重要と判断されたものは、ロバでビデオ再生装置一式を積んだ車をひいて島中を回るのです」


「何でロバ? てか、それよりエレカさんの姿が見あたらないんですけど」


 こんな時、桃果の次に用心しなければならないのが、エレカである。ところが、彼女の姿が見あたらない。

 いや、桃矢は最初からエレカが、王宮会議室にいなかった事に思い当たった。


「ロバがひく車で島を回るわけですから、国土交通委員会が担当しています。特Aの案件は国土交通委員長自ら巡回に出ることになっています」


 ミウラが話す内容は、桃矢の身の毛を逆立てるのに充分なものだった。


「今日は特に嬉しそうに出て行きました。人気者なんですよ。エレカはお話が上手なので」


 それは、脚色がうまいからだ。

 桃矢は一言も発せず、膝を抱えて床にうずくまった。


「トーヤ陛下、報告があります!」

 縦ロールの巻き毛を揺らし、マープル財務委員長がバインダー片手に立ち上がる。


「詳しく話してください。できるだけ長く、いや、詳しく!」

 現実逃避できるなら、この際何でもよい。桃矢は気持ちを切り替えることにした。


「ゼクトールに対し、寄付が集まっております」


 途中行程と自分の感想を省いて、まず結果から先に報告するマープル。

 彼女は、報告の手順を遵守した。手慣れた印象を受ける。


「へえー。世界には奇特な人もいるものだね。僕たちは一人じゃないって事だよね。なんか勇気が湧いてくるなー!」


 願ってもない明るい話題。

 水に落ちた犬のような国でも、味方してくれる者達がいる。ケティムの宣伝に惑わされぬ、澄んだ心を持った識者だろうか?


「入金額は時を追うごとにふえています。一番大きい口は『エンスウ・妹ファンクラブ』と名乗る団体です」

「……はい?」


「二番目は『アキバ妹愛好会』。三番目に多いのは『妹クラブお兄ちゃん連盟』。あらあらあら、ほとんどの団体さんに『妹』の文字が付いていますね」


 力なく首をかしげ、天井の隅を見続けている桃矢。


 その様に気付いたのだろうか、同じ天井の部位を見つめていたミラが、視線の先を変えた。同じ場所を見ているのが嫌だったのだろう。


「しっかりなさい、桃矢!」


 笑いを噛み殺しながら励ます桃果。後ろから、桃果が桃矢の肩を軽く揉みし抱く。

 柔らかい手が、桃矢の筋肉の緊張を緩和した。 


「そうだね、しっかりしなくちゃ」

 立ち上がる桃矢。目には力が戻っている。


「あ、それからエンスウのフィギュアを作る旨、肖像権の借用依頼も三件。ヨーロッパと日本からの打診です」


 マープルの報告に、がっくりと膝をつく桃矢。


「青春に挫折している桃矢陛下はそこに置といて……国防会議を開催します!」

 桃果が手で物を置くフリをした。


「ケティムはいつ仕掛けてくるか? そのあたり、推測できる人いる?」

 桃矢に変わり、会議を仕切る桃果。ぐるりと閣僚達の顔を見渡した。


「十中八九、国連で形だけの討論が終わったらすぐ。我々が全否定することが前提ですが」

 ミウラが意見を述べた。相変わらず怒ったような眉をしている。


「最終討論の後に、最後通牒を出すでしょう。それをゼクトールが否定したとき、ケティムの武力行使に正当な理由が与えられるのです」


 ゼクトールにケティムの大使館はない。ケティムにもゼクトールの大使館はない。そして、ゼクトールへ入る航空機は今のところ無い。


 よって、ケティムが公文書をゼクトールへ渡す際は、国連の場で、ということに

なる。


「これって出来レースだよね? ケティムと、ケティムの息の掛かったエネルギー消費大国が総会を仕切っているから、ゼクトールとしては逃げようのない問題か。うーん!」

 考え込むと、天井を見上げる癖のある桃矢。椅子で反り返っている。


「ケティムにイニシアティブを取られっぱなしよね? なんだか気に入らないわ!」

 考え込むと、腕を組む癖のある桃果。椅子でふんぞり返っている。


「避けられないなら飛び込んでみようか? ほら、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もありって!」


 桃矢の音頭取りに、うんうんと頷いて頭を寄せるゼクトール首脳陣。

 結果がどうあれ、ノリのいい方に傾くのがゼクトール気質である。


「さあさあ、クッキーが焼けましたよ。今日はシフォンクッキーですよ!」


 ジェベルがミトンを手につけ、大皿に盛った薄ブラウン色のクッキーを持って入ってきた。

 歓声を上げながら、争うように手を出す女の子達。


 ゼクトール国防会議は、一気に佳境へと突入したのだった。

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