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28.デビュー。

「EUの大手ニュースメディアが、国連でのゼクトールとケティムの領土抗争問題に対する会議を取り上げてました。とはいうものの、ケティムが大きく取り上げるように仕組んだらしいですが……」


 ミウラが報告する。そして、ミラに目で合図を送る。ミラは、タイミングを大きく外して頷き、機器を操作した。

 ディスプレイに、ニュース映像が流れだす。国連からの中継だった。


 ニュースキャスターが一通り話してから、会議の様子が流れ出す。


 コモドオオトカゲから直接進化したような顔を持つ総会議長が何か喋っている。これで元教師というから驚きだ。


 英語なので、桃矢と桃果にはさっぱりわからない。

サラとミウラが交互に同時通訳してくれることになった。


「あ、エンスウちゃんが映ってる!」


 声を上げたのは、外務委員長のサラ。

 友達がテレビに映ったあのテンションだった。

 桃矢は服装を心配していたが、ちゃんとしたスーツを着ていたので安心した。


「ちゃんと国連代表と認められたんだ……」

「十三才の女の子を代表として承認してくれた国連の、懐の深さに感動を覚えるわね」


 いまいち信じられないが、現実として、十三才の女の子が国連の壇上に立っている。


「喫茶店で直接、事務総長に信任状を手渡したそうです。エンスウが言うには、すごくいい人で、チョコパフェを奢ってくれたそうです。今、エンスウが着ているスーツも事務総長に買ってもらったそうですよ」


 サラがいきさつを語った。とても羨ましそうだった。


「事務総長、そっち系の人でしたか……。経験不足をきっちりと若さが補った良い例だな」


 桃矢は国連の仲介能力に期待を抱くのをやめ、ニュースを見ることに専念した。


 画面の中では、ケティム代表が喋っている。

 むしろ、演説だ。

 ケティム側は、ミョーイ島がケティム固有の領土であることの、目に見える物証を出して説明している。

 常に説得力があると言えよう。


 対して、ゼクトールによるミョーイ島領有の主張は口伝でしかない。

 いかにケティムが正しくて、ゼクトールの言い分が独りよがりなのか、力説していた。


 それに対し、詰まりながら、舌を噛みながら、ツインテールを跳ねさせながら反論するエンスウ。

 押され気味である。


 ケティム代表、さらに二枚、カードを切る。


 一枚目。

 ゼクトールの政治体制が、絶対王制であること。国民の人権を蹂躙していると批判してきた。

 ケティムの常套手段、問題のすり替えである。


 論調にまんまと乗っかっていくエンスウ。

 無意味な人権論戦が展開されていく。


 そして、二枚目のカードを切るケティム代表。

 ゼクトール代々の王が複数の女性をはべらせ、政治を私物化。

 その女性を通して政治を指示していると指摘した。


 これは痛い。

 事実、先代ゼブダ王まで、代々二千年に渡って受け継がれてきたゼクトール固有の政治形態である。

 スケベなシステムが二千年も続いたのだ。

 返す返すも残念なのは、桃矢はまだこのスケベの……もとい、システムの恩恵にあずかっていない事だ。


 ケティム代表は、現王――桃矢のことである――も女性の人権を踏みにじる行為を夜な夜なおこなっていると論外に主張した。


 十三才のエンスウ。少女特有の潔癖感からか、この言葉に噛みついた。

『違います! トーヤ陛下は女性に対しヘタレです! 絶対童貞です!』


「ちょっと待って、ちょっと待ってエンスウちゃん。全世界に向かってそれはないだろ!」

 もう一人、必死に噛みついている人物。ゼクトール国王、桃矢そのひとである。


「遅いわ。これは今から五時間前の録画映像よ。エンスウからの連絡だってとっくに入ってきてるじゃない」


 嬉しそうな桃果。この子は桃矢のことになると何にでも喰いつく。


「いや、たしかに『失敗しました』って内容の連絡が入ってたけど!」


 電話口で、失敗を悔いて、支離滅裂な精神状態になっていたエンスウ。

 興奮状態の彼女から、事の成り行きを正確に聴取できなかったのが記憶に新しい。


 桃矢の抗議も虚しく、国連中継は無情に続く。

 ケティム代表の演説の番が来た。勝手が違うのか、盛んに咳払いをしている。


『ケティム固有の領土をゼクトールは侵略したのです。これは国際社会のルール違反。即刻退去をケティムは主張します』


『違うもん! ミョーイ島は、千年以上前からゼクトールの領土だもん! 本島から見えている島だもん! 武力行動するケティムのほうがずるいんだもん!』


 泣きそうになりながら必死に食いついているエンスウ。

 しかし、ケティムは容赦ない。


『あの島の名はミョーイではありません。ケティムでは古くからデュク島と呼んでいます。そして提出した資料にあるように、ケティムには領土としての証拠があります。これは先日の総会で認められたはずですが? それとも、ゼクトールこそ占領するに値する物証があるのですか?』


『ミョーイ島は……昔から……おぢーちゃんがー……』


 エンスウの目が潤みだし、口がわななきだした。


『アーッ! アーッ!』


「あ、泣いた!」

 エンスウは口を大きく開けて、あたりはばかることなく泣いた。


 カメラの向こうから騒然とした空気が伝わる。


 国連総会会議場、グダグダである。さらに――。


『妹を泣かせたのはどいつだぁーっ!』


 話を余計ややこしくする乱入者がいた。パイロンだ。


 いつの間に会議場に侵入したのか、鬼の形相をしたパイロンがケティム代表に迫る。

 しかしそこは神聖な会議場。たちまちのうちに取り押さえられる。


『お前らも敵かぁ! それでも大人かぁーっ! 妹を虐めるなーっ!』


 画像が大きく揺れ、中継はそこで終わった。

 エンスウの国連デビュー。

 前代未聞の珍ニュースとなって世界を駆け抜けた。 


 ゼクトール首脳部。

 ばらくの間、だれも喋れなかったのだった。

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