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25.ゼクトール内閣、第二回国防会議。太陽編。

「せめて正確な敵艦隊の構成がわかったらなぁ。……偵察ったって、ハリネズミのような戦闘艦が相手だし、……なんと言ってもあのフランカー。近づくのはムリだな」


 桃果の推論でしかない艦隊構成では心許ない。正確な艦隊編成と位置を知れば、攻撃目標も絞れる。万が一にでも打つ手があるかもしれない。


「確かに、正しい敵戦力を把握するためにも偵察は必要です。敵を知らずに戦いを挑む軍は、必ず負けます」


 ミウラ国防委員長が桃矢のぼやきを拾った。小さな声で言った独り言なのに、ミウラは聞いていたのだ。じっとうつむいて考え込んでいるミウラ。


「だめだよ。偵察に行った人は生きて帰れない。危険な行動は慎もう」


 暗い表情をする軍人は何を考えだすかわからない。桃矢は、ヒラヒラと手を振ってミウラの行動を諫める。


 横道にそれるのはもうよそう。時間が限られているのだから。

 できもしない後ろ向きなことを考えても仕方ない。桃矢は前向きに考えることにした。


「そうなると、……舞台は国連に移されるわけだけど……」


 桃矢は、そう言ってからゆっくりと桃果に視線を移動する。

 桃果も桃矢に視線を向けていた。初めてのお使いに出た子供を見る目だった。


「明後日、国連で今回の問題が取り上げられます。エンスウの活躍に期待しましょう!」


 眉を吊り上げながら拳を握りしめながら力説するサラ外務委員長。

 親友で幼馴染みであるエンスウ代表の実力を過大評価しているのが、微笑ましくもあり悲しくもある。


「あの子に任せるのかぁ?」

 なんとも情けない顔をする桃果。桃矢も同じ心中だった。


「エンスウちゃんはともかく、僕はお兄ちゃんのパイロン君が心配だなーっ」

 懐から飛び出していた導火線を思い出し、桃矢は肩を落とす。


 しかし、落ち込んでいても仕方ない。桃矢は下腹に力を込め、姿勢を正して気力を奮い起こす。


「敵の力もだいたいわかったし、ゼクトールの現状もだいたいわかったきた。次に、対処法を考えよう」


 桃矢は、落ち込みがちな暗い話題から、少しでも明るい話題に振ってみた。


「では、現在まで進行させてきました、我が国の防衛に関する補足説明をいたします」

 ミウラがメモを開いて立ち上がる。


「実はミョーイ島に、少数ながら抵抗部隊が上陸しておりまして、防衛陣地を構築しつつあるのです。ケティム侵攻が始まって間もなく、出稼ぎに出ていた男衆の中で、すぐに帰国できた者が、昼夜の境なく補強工事に勤しんでいます」


「え? 男の働き手がいたの?」

 桃果が素になる。その声に、少なからず驚きがあった。

 

「はい。さすが愛国心溢れる我らがゼクトール国民。少ない人数ですが、世界各地に散らばって出稼ぎをしている男達の中には、うまい具合に休暇を取れたり、契約更新の節目などで、即帰国可能な者もおります。その他の者達も、雇い主に事情を説明して、おっつけ帰国すると連絡が入っております」


「頼もしい父兄だわ! 緊急事態だからね。人手は多い方が良いわよね」

 桃果がしきりに感心する。


 だが、しかし、果たして……。桃矢は言葉にしないし顔にも出さなかったが、彼らが帰国したとして、どれほどの役に立つというのだろうか?


 軍隊というののは一朝一夕にできる物でない位、桃矢にも知識として蓄えられている。


 剣と槍で戦っていた時代ならともかく、近代兵器を駆使する現代戦で、素人集団の義勇軍が、はたして、どれほど効果的で組織だった抵抗ができるというのだろうか?


 犠牲者が増えるだけ。流れる血の量と、失われる人命、そして悲しみと憎しみが増えるだけではないだろうか?


「まず、上陸予想地点にトラップを仕掛けるのが定石ね。落とし穴や虎鋏なんかもけっこう有効よ! ちょっと聞いてる? 桃矢!」


「え? あ! 聞いているけど、僕その辺は苦手で……」

 聞いてない。桃矢は適当に話を合わせただけだ。


 桃矢の深い思惑をよそに、桃果主導のケティム対策会議は、随分先を走っていた。

 各委員長が出した対抗策に、桃果が点数をつけるという地点にまで走り去っている。


 状況判断のため、発言を控えて聞いている桃矢。

 どうやらセコイ対策で、なおかつ経費が少なければ少ないほど点数が高いようだ。


 桃果のテンションが一番高いのは当然として、九人の委員長達もノリがいい。

 和気あいあいとした空気の中、おのおの、よりセコイ戦術を披露していく。


「僕も作戦を一つ思いついたんだけど」

 桃矢が話に入っていく。未来が暗い中、今は少しでも明るく対策を考えたかった。


「長い草の両端を縛っておいて、敵兵の足を引っかけるっていうのどうかな? 経費はかからないし、雑草対策になるし」


 桃果が出した点数は三十点であった。






「もう一つの理由は何よ?」


 その夜。またもや王宮を抜け出し、浜で夕涼みをしていた桃矢が驚いている。

 後ろから、いきなりかけられた桃果の第一声であった。


「ナニが?」

 虚を突かれたせいもあるが、何のことだかさっぱりである。頭が全く回転しない。


「ほら、桃矢が空港から引き返してきた理由のあと一つ! 覚えているわよ。二つの理由って桃矢がはっきり言ったのよ! どうせ、水着絡みでしょうけど!」


 そこまで言われて、やっと桃矢の脳神経シナプスが繋がった。

 一つめが自転車の故障だったというアレだ。


「あの場面でよく覚えていたなー、つーか、あのムードを()てよく聞けるなー」


 あきれ顔の桃矢。撫で肩になって脱力している。


「話をそらそうったって駄目よ! 未来に禍根を残したくないの。きりきり白状なさい!」


 危険な角度に眉を吊り上げた桃果。

 柳眉ってのはこういう綺麗な眉毛なんだろうな、となにげに桃矢は考えていた。


「隠すつもりはないさ」


「だったら、はっきり言いなさい。スカシや誤魔化すのは無しね!」


 桃果の顔がドンドン近づいてくる。危険な距離まで近づいてきて、これはもうアレしかないのかな? 桃果はアレのチャンスを提供しているのかな? とドキドキしていたら、微妙な空間距離を残して桃果が止まった。


 息づかいが聞こえる距離。しかし、行動を起こすには遠い距離。これは否定?

 逡巡の末、きっぱりと諦めた。情けないが、自分でも押しが弱いと思っている。


 もっとも、恒星系の輝きを持つ桃果に押し勝つとうと思うのが、そもそもの間違いだ。

 溜息一つ付いて周りを見渡す。ゼクトールの夜は早い。日が暮れて暗くなると、人々はすぐに眠りにつく。

 そのため、町の明かりは少ない。秘密を打ち明けるにはうってつけだ。


「太陽系にある恒星は一つ。太陽だけだってこと知ってる?」


 桃矢は、人差し指を一本だけ立て桃果に逆質問したのだった。

次話「お元気で……」


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