24.ゼクトール内閣、第一回国防会議。チョモランマ編。
「本当に何も残ってないの?」
桃矢が念をつく。
「はい。最後に買った風力発電機でちょうど残金ゼロです。怖いくらいに残金ピッタリでした」
「それ、騙されてるんだ。日本企業はゼクトールのこと調べ上げた上で国王をだまくらかしたんだ! 青い空のばっきゃろー!」
桃果の隣で、コバルトの空に向かって吼える桃矢。
「まあ、お二人とも仲のよろしいことで」
ジェベルが微笑んだ。あまりに間の抜けた合いの手にガス抜けし、冷静さを取り戻した桃矢。
まあ……ジェベルさんは、南国的と言えば南国的か。
「先代はいろんな事をやってたんですね?」
半ばあきれ顔の桃矢。特に答えを期待しての発言ではない。
「その他にも、国際的な金融関係の大規模規制緩和計画も立案なされました。海外からゼクトールへの金融業参入、並びに外資本の大量流入を目指されたのです」
「スイスがモデルね。なかなかやるじゃない。見直してあげるわ、前国王!」
桃果にどういう権限があるのか知らないが、彼女が前国王を褒めた。
金融関係で大国や大企業にコネがあるかもしれないからだ。
桃矢も期待に胸が高鳴り、頬が緩んだ。
「ところが――」
「え?」
マープルが放った不吉な接続詞に、桃矢と桃果の笑みが凍り付く。
「マネーロンダリングの温床になる、と、アメリカ合衆国より強硬な圧力がかかり、計画が潰れてしまいました。この策に全てを賭けていたゼクトールは、収支計画を大幅に縮小せざるを得なくなり、以後現在に至るまで厳しい財政が続くことになったのです」
学習発表会のノリで答えるマープル。非常ににこやかで元気だ。
「な、なにしてんの、先代様!」
湧き上がる脱力感に、膝をつきそうになる桃矢。
なんなの、この間抜けさ?
いやいやいや、ここは踏ん張りどころ。桃矢は、勢いでハンドルを大きく切った。
「外務委員長のサラちゃん!」
「はい!」
いきなりの指名に飛び上がって驚くサラ。
「ゼクトールは、大国と軍事同盟結んでない? あるいは、強力な経済援助関係にある国とか、関係が友好的で人的交流が盛んな国とか?」
人、それを他人のふんどしで相撲を取ると言う。しかし国際社会では常識の範疇。
「えーと、アメリカとは、先のマネーロンダリングの一件で関係が悪化しています。中国は、台湾の認定により国交を断絶してます。台湾は国連に加入してません。ヨーロッパ系とロシアは、大使館を開設していませんし、向こうもゼクトールの存在自体を知らないと思います」
桃矢は、チョモランマ山頂に一人で立っている幻を見た。山の頂を征服したはずだが、周りに人どころか物がない。山すらない。孤立無援。下山するにも自力頼みだ。
しかし、先代国王ゼブダ・バルギトル・ゼクトール。
馬鹿だブタだと侮っていたが、水着を制服に採用したり、思い切った外交戦略をとったりと、なかなかの人物だ。
「恐れ多くも……、トーヤ陛下の母国である日本政府を頼ってもらえないでしょうか? 日本は世界でも五指に入る軍事費を持つ国だと聞き及んでおりますが?」
サラがおずおずと逆提案を持ちかけた。緊張で肩から上がガチガチだ。
「ナイナイナイ、ぜったいあり得ない!」
桃矢と桃果、シンクロナイズして手を左右に振る。
「十年前までは一国平和主義を謳歌していた国よ。弾丸飛び交う戦闘中の地域へ自衛隊を丸腰で派遣しろって、平気な顔して主張する政治家がいる国なんだから。ぜったい無理!」
虫の死体を見るような目をして否定する桃果。
それが信じられないでいるサラであった。
次回「ゼクトール内閣、第二回国防会議。太陽編」




