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23.ゼクトール内閣、第一回国防会議。青空編。

 だれも口を開かないので、桃矢が口を開くことにした。


「とにかく、空母……じゃなかった、戦術航空巡洋艦単体でも、ゼクトール軍にとって、充分な驚異だって事だな?」


「認めたくないけど、桃矢の言ってることは的を得ているわ」


 いやいや拍手をする桃果。釣られて拍手をする女の子達。眠そうな目をしていたミラも我に返って拍手している。たぶん彼女らは、桃果の拍手の意味を理解してないだろう。


「駆逐艦やフリゲートには連射砲や、……とにかく痛い装備が満載よ。もちろん、複数目標への同時攻撃可能な戦闘統合システム……いっぱいの標的に同時攻撃できるのよ!」

 まるで自分の物のような言い方をする桃果。ちょっぴり自慢げ。


「ドック型強襲揚陸艦は、艦内にホバークラフト型の水陸両用艇を四隻……つまり、物資ごといきなり上陸できるのよ。ゼクトールに!」


 桃果は、ゼクトールの人たちに変な幻想を与えないつもりだ。徹底的に、ゼクトール軍の無力さを訴えていた。

 甘い期待を持たせてはいけない。一度、彼女らの認識を更地にしてしまわなければならない。


「航空機は例のフランカー。空軍機との違いは全遊動式のカナード翼ね。固定武装は三十ミリ機関砲。最大離陸重量は、……とにかく大型で、爆弾いっぱい積めるの。世界トップクラスの戦闘力を持ってるの!」


 桃矢にはわかる。


 雷音のごとき排気音をまき散らし、滑走路上空でターンしていったフランカー三機。桃矢の脳裏に、ノミと金槌で刻まれた恐怖が蘇る。


 あんなのに係わったら確実に命を落とす。戦うとかそんな次元の話ではない。

 しかし、南国の女の子たちの理解は、そこまでついて行かない。


「例えるなら可変式機動人型兵器二十機と、旧式ショルダータックル専用機三機の差。ミグでどうこうできる存在じゃないのよ」


「僕たちにはよく解るたとえだけど、彼女たちにはちょっと解りづらいかな?」

 桃果が言葉を継いだ隙を狙って、桃矢は声をかけた。


「じゃ、敵はチート」

「いやそれは簡単すぎるかな?」

 しかし、これでは言い過ぎかも……。桃矢はそう思って聞いていた。


 責任者として矢面に立つミウラ。眉を吊り上げ、唇をへの字に結んでいた。顔色が青い。

 ミウラだけではない。年少組のサラやノアも、顔が紙のように白い。


 桃果の講釈はまだまだ続きそうだ。桃矢としては、ここいらで方向転換したかった。


「桃果の説明で、ケティム艦隊が化け物みたいだと解ったけど、何か対抗手段はないの?」


 敵のチートさと驚異だけを話しても仕方ない。味方が鬱に陥るだけだ。

 桃果は桃矢の言葉で、その事に気付いたようだ。


 擦れ音を立て、マジックでホワイトボードに漢字二文字を書く桃果。絵と違って達筆だ。


「空海?」

 桃矢、口に出して読んでみる。


 弘法様が何か?

 桃矢は腕を組んで首をかしげた。


「空と海で戦ってはいけないということ!」

 ああ、そういうこと……。


「残された手は地上戦ですね?」

 ノートを取りながらミウラが聞いてきた。


 それも有効な反撃法なのだろうが、充分な訓練を受け近代戦武装した敵地上部隊が、チームプレイを心がけながら掃討戦に入られたら、ゼクトール側の人命損失は激しいだろう。


 桃矢としては、空港への道すがら、別れを惜しんでくれた女の子達が、血に染まる光景だけは見たくなかった。

 それ故に、直接対決以外の戦いを模索しなければならない。


 例えば、砲火を交えずに戦争を勝利で終わらせる方法。


「経済や外交も武器にならないかなあ? ほら、よく言うじゃない。戦争は外交手段の延長である、って」


 桃矢の提案に、豆鉄砲を喰らったような顔をする桃果。そんなに意外だったのだろうか?


「それいいわね。実に知能犯よ! ゼクトールは出稼ぎ以外に、外貨収入はないの?」


 まずは経済。桃果は、財務委員長のマープルに発言を促す。


 マープルは、縦ロールの入った金髪を優雅に手で払いのけながら起立した。

「主な輸出品目は、タピオカ芋と椰子の実です」

 自慢げなマープルの報告を受け、富士山の形に口を結ぶ桃果。器用なヤツ。


「もっとパッとしたブツ、輸出してないの?」

 人差し指を顎に当てて考え込むマープル。はたと手を打った!


「金額は少ないのですが、切手と熱帯魚を――」

「過去! 過去よ! 過去この国は、抜本的な経済政策を何かとらなかったの?」

 マープルの言葉を遮って桃果が叫んだ。


 巻き毛を指でいじりながら斜め上を見て考え込むマープル。と、何かを思いついたのか、いきなり手を打った。 

「生前、ゼブダ前国王が、思い切った外交戦略をとっておられました!」

「ほほう、聞かせてもらおうじゃないの」


 前国王と言えば、旨いもの食って女の子にスケベな事して、趣味に走るだけ走って成人病の合併症で死んだお方。

 あまり期待はできないが、この際だ。藁にもすがる思いである。


「先々代の頃、ゼクトールは、中華民国、いわゆる台湾を国家承認していました。でも、前国王ゼブダ様のお考えで、台湾と国交を断絶。一億ドルに上る援助と引き替えに中華人民共和国、つまり中国と国交を樹立しました。しかし三年前、再び台湾と国交を復交。その際、台湾より多額の経済援助金を受け取っております」


 一億ドル。当時の日本円にして百数十億円。プラス、多額の経済援助。桃果の目の色が変わる。


「いいわね! いろんなキャンペーンが打てるわ。で、合計金額はどのくらい?」

 身を乗り出す桃果。


「歴代国王の対外借金を返した後、前国王が趣味、……もとい、政略で集めたいろんな電子機器と遊行費と食費、……もとい、王室費に当てたため、全て消えてしまいました」


「歴代国王っ! どんだけ借金作ってたのよっ! 前国王っ! あなた食べ過ぎ!」


 桃果が窓の外に身体を乗り出し、青い空に向かって吼えた。

 その様は、ライカンスロープに変身するんじゃないかと、本気で心配したほどだ。


 桃矢は、月が出てなくてホント良かったと、心から思ったのだった。

次話「ゼクトール内閣、第一回国防会議・チョモランマ編」



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