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21.キングダム

「さて、問題は敵戦力よね!」


 腕まくりをした桃果が、ホワイトボードを睨み付けている。


 各委員長達は、ボードを前にして机に並んで座っている。

 一言で言えば、教室?


「わたしだったら戦術航空巡洋艦、つまり空母一。防空タイプを含む駆逐艦三。フリゲート十。強襲揚陸艦二の艦隊編成で臨むわね!」


 逆Vの字型に配置を組み、ああだこうだと艦艇の位置を入れ替える。補給艦を含まない超攻撃型一発屋艦隊だ。


「こちらの長距離戦力といえば、旧式のミグだけ――」


 飛行機の音が空から聞こえてきた。桃果だけではなく、その場にいる全員が廊下の反対側の窓を見る。


 ゼクトールを立つ、最後の旅客機が空を飛んでいる。


「トーヤ陛下の乗った飛行機が、無事離陸したようですわね」

 ジェベルの口調はいつもより重かった。黒い眼鏡を指で直す。


「俺たちをまともに見れないウブなヤツだったよな。ひょっとして童貞?」

 椅子にもたれたエレカが茶化す。


「まあ、はしたない! でも、エレカ委員長のタイプだったのではないでしょうか?」

 マープルがさらりとエレカを攻める。向こうを向いたまま、動きを止めるエレカ。


「図星ですか?」

 アムルが無意識にエレカを攻めている。


「桃果様に悪いですよ」

 コソコソと耳打ちしながら、にやけているサラとノア。


 ミラは一人、みんなとは真反対、光の宿らない瞳で廊下側ドアを見つめていた。


「どうでもいいわよ、あんなヤツ!」

 桃果が荒い鼻息を一つ吐き出した。

 小さくなっていく飛行機をじっと見つめたまま。


 エレカが、そこにつけ込む隙を見つけた。イタチのような目をして、狐のように笑う。


「無理すんなって。俺は第二夫人でいいからさ、第一夫人の座は桃果にくれてやるぜ!」

 対して、全く無反応の桃果。エレカはつまらなさそうな顔をした。


 砂粒のように小さくなった飛行機を見つめたまま、桃果がボソリと言った。

「バカ毛が一本飛び出したバカ桃矢!」

「誰がバカだって?」

「バカはバカじゃない!」


 いつものように食いつく桃果。眉を危険な角度に吊り上げて、背後の声に向き直る。


「桃矢以外に――」

 人の目はここまで丸くなるものだろうか? 桃矢はそう思った。


 ドアにもたれ掛かって荒い息をしている桃矢。その後ろで、青い顔をしたミウラが立っていた。


「な、なんであんたここにいるのよ?」

 桃果は無意識に三歩、桃矢に向かって歩いていた。


「二つばかり、想定外の事件が起こって飛行機に乗り遅れちゃった。エヘ!」

 小首をかしげて舌を出す桃矢。


「それ可愛くない!」

 桃果の歩みが早くなる。


「自転車のチェーンが外れちゃってね。直してたら、飛行機が出ちゃってさ。僕も戦うよ。国王だもの! 大丈夫、何とかなるよ!」

 桃果が桃矢に抱きついた。


 あれ、僕も抱き返していいのかな? と思いながら、おっかなびっくり腕を回す桃矢。

 桃果の肩幅は小さかった。壊れそうなくらい細かった。柔らかい身体だった。軽い身体だった。暖かい体温だった。いい匂いがする髪の毛だった。そして――。


「バカ桃矢!」

 泣いている桃果も可愛かった。


「いけません、トーヤ陛下!」

 大声を出したのはジェベル宰相。これほど切羽詰まったジェベルも珍しい。


「陛下は一泊二日でお帰りになられないと! ゼクトールは危険なんですよ! 失礼ですが、トーヤ陛下ならこの危機を脱せるとお思いですか?」


 仰け反ったのは桃果が桃矢に身体を預けたからか、ジェベルの気迫におされたのか。


「僕は、どう頑張ったって身近な人しか守れません。そしてそれが偶然、桃果やゼクトールの人たちだったんです」

 桃矢の解答に、ちょっとだけ頬を朱に染めるジェベル。


「ジェベルさん、そして皆さん、僕は誰ですか? 現在の僕は何者ですか?」

 桃矢は、桃果を抱いたまま、笑いもせず怒りもせず、のっぺりとした顔のままジェベをじっと見つめる。


「王です。トーヤ様はゼクトールの王です」

 ジェベルの言葉に、首肯する残りの女の子。


「王の命令は絶対です。みなさんはそうおっしゃいました。だから僕の命令は絶対です」

 ニコリともしない桃矢。ほんの一時間前前と雰囲気が変わっている。


「王として命令します」

 桃矢の胸の中で見上げる桃果。それは初めて見る桃矢の表情だった。


「僕に……みんなを、みんなとみんなの宝物を守らせてください」


 桃矢は、いつものように柔和な笑みを浮かべたのだった。


次回「ブレイブ・ガールズ」


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