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14.虚弱体質神

「トーヤ陛下! 乗り物を用意いたしました。国王即位のお披露目までの間に、ゼクトール各主要施設の観光案内をいたします。どうかお楽しみ下さい」


 ジェベルは、レイバンのサングラスをかけ、指先を切ったグローブをはめて立っていた。彼女が用意し、眼前に引き出されてきた乗り物は!


 ……マウンテンバイシクルだった。


「ちょっと、ジェベルさん! なんで自転車漕がなきゃならないのよ! 車はどうしたのよ、車は?」


 前傾姿勢でMBを漕ぐ桃果。これが三度目の愚痴だ。


 四人は白い砂が堅く敷き詰められた道を走っている。さほど広くもなく、さりとて狭くもなく、サイクリングには適度な道幅。

 左右に茂る椰子の森が、日本にない景色だ。


「ほとんどの道は、珊瑚の白い砂でできた未舗装路です。しかも道幅が狭く、大型車の乗り入れはできません。それに十分と走らないうちに、たいていの目的地へ着いてしまいます。ゼクトールで一番使い勝手のよい乗り物は、自転車なのです」


 先頭を切って走るのはミウラ。道案内を兼ねた露払いである。その後ろをジェベルと桃果が並んで走っている。桃矢は国王なのに最後尾だった。

 しかし、この位置は神の手による配置。


 サドルで揺れるミウラの引き締まったヒップ。そしてジェベルの肉感的なヒップ。


 それも水着。


 黒の小さな布地に包まれた柔らかそうで温かそうなナニがリズミカルに、左右に分割して動く。


 サドルが、桃型のお尻を持ち上げて、また、お尻の弾力が押し返して……。あ、あの皺はなぜできるんだろう?


 神様。ゼクトールの神様。名前忘れちゃったけど……あ、思い出した。クシオ様! 僕はあなたに宗旨替えいたします。どうか、このまま目的地に永遠に着きませんように!


「それは無理」


 どこからか聞こえてきた声にハッとする桃矢。これは空耳か?


 だが、どんなものにも必ず終わりがくる。でなければ、新しいことは何も起こらない。


 やがて、巨大な建造物が姿を現した。

 桃矢の願いも虚しく、クシオ様のパワーが衰退していく。ミウラがブレーキをかけて減速しだしたのだ。


 力一杯手を振っている人がいた。青白ボーダーの水着を着た女の子。見覚えがある。

 長く垂らした三つ編み。元気いっぱい、農務委員長ノア・モフモフだ。


「これからご案内させていただくエリアは、我が国の最重要防衛指定施設です」

 ここが目的地だった。目的地に着いてしまったのだ!


 ノアが束ねる農務委員会は、国内の経済を一手に引き受ける組織でもある。エネルギー政策も、農務委員会の仕事の一環らしい。

 ノアはエネルギー担当も兼ねていた。


「ゼクトールが誇る、国立中央基幹発電所です!」


 ノアが説明したとおり、どう見ても発電施設である。

 さっきから桃矢と桃果は、口を開けて見上げていた。


 巨大なプロペラを頂に持つ、長大な塔がただっ広い草原に一基。

 風切り音とギア音がやたら大きい。黎明期の一品だ。


「風力発電……ですか?」


「ゼクトールは海抜が低い島です。地球温暖化には神経を尖らせています。これは、いわゆるエコ発電。炭酸ガス排出量ゼロです!」


 それはそうなんだが、何か抜けてないか? 桃矢は激しく疑問を抱く。


「確か、ゼクトールって朝と夕方しか風の吹かない島だったわね? しかも微風」

 桃果がボソリと呟く。神殿がある岬の高台で、ミウラから受けたガイド内容だ。


 ……それだっ!


「さっきから見てるんだけど……羽がピクリとも動かないんだけど……発電してるの?」


 ずっと上空を見上げたままの桃果。

 彼女の眉間に皺が寄っている。真剣に心配しているのだ。……この国を。


「不足する電力は、あの副発電所に設置されたディーゼル式発電機でまかなっています」


「いや、それエコじゃないから!」

「むしろ、そこが中央発電所ですから!」

 桃矢と桃果が真剣に突っ込んだ。


「いえ、でも、京都議定書に沿うって気持ちだけでも大切だと思うんです。だって地球温暖化で海面が上昇したら、珊瑚礁でできたゼクトールは海に沈んじゃうんですよ。これ以上、石化燃料を燃やして二酸化炭素を増やしたくないじゃないですか!」


 ノアの真面目な気持ちだけは汲めるが、汲んだからといって発電量は増えない。


「で? 誰がこんなガラクタ買ったの?」

 桃果はノアに容赦なく詰め寄る。対して、後ろ向きに下がるノア。


「誰に騙されたの?」

 大股で詰め寄る桃果。ノアの背中が風車塔に当たる。これ以上さがれない。


「ぜ、前国王が……、日本の四ッ字商事から……」


「うわっ! 日本の商社にに騙されたんだよぉ! ごめんよぉみんなーっ!」

 頭を抱える桃矢。


「騙されるというか……普通、何十基って建てるでしょうに! 羽が一日中回転したところで、一基だけじゃ大した電力を作れないでしょ?」

「え! それは本当ですか?」

 桃果の言葉に驚く、エネルギー担当委員長のノア。

 桃果も桃矢にならって頭を抱えた。


 二人はゼクトールが……。国家として心より心配だった。






「次はどこよ! 次はっ?」

 立ち漕ぎでマウンテンバイクを駆る桃果。やけくその(てい)である。


「次の視察予定部署は空軍です!」


 スタンディングで抜重し、ギャップを華麗に飛び越えるミウラ。ジェベルは準備があると言って先に王宮へ帰っていた。……逃げたのかもしれない。


「事前説明いたします」


 先頭でお尻を突き上げ、マウンテンバイクを漕ぐミウラ。後ろを走る桃矢と桃果を振り返りながらの説明が始まった。


「ちょうど編隊飛行訓練が行われている時間です。急げば飛行中の視察に間に合います」

「まさかマスコットネームがミグって言うだけのプロペラ機じゃないでしょうね?」


 桃果のチェックが入る。軍視察の移動に自転車を使っているのだ。期待はすまい。


「ジェット戦闘機です! 中古で購入しましたが、れっきとしたミグ戦闘機です。予算や空軍の規模といった観点から、三機しか運用できませんが!」


 反論するミウラ。足に力が入ったのだろう。少しずつスピードが上がっていく。


「三個小隊分は欲しいところだけど……まさか錆が浮いたミグじゃないでしょうね?」


 あきらかに桃矢より時間あたりペダル漕ぎ回転数を上げる桃果。声が大きい。

 ミウラも負けずに声を張り上げる。


「炎の女神ファム・ブレイドゥ様を模して、赤く塗られた錆一つない機体です。ちなみにチームのコードネームは『赤い三連星』と申します」


「おしいっ! けど真逆! そしてビジュアルが心配!」


 緩やかな丘を下る白い珊瑚でできた道。ミウラと桃果は並んで突っ走っていく。

 二人は、桃矢をブッチギリにして走っていった。


 ここの神様は虚弱体質なんじゃなかろうか? と、頭を捻る桃矢であった。

次話「最新鋭戦闘機!」


お話が切り替わります。

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