拷問される側より、する側がリタイア
普通は拷問される側よりする側はしんどくないだろう。しかし、拷問される側のほうが疲れて辞めていくこともあるのです。
むかしむかし、拷問をされる側より、拷問をする側のほうが、疲れて根負けするぐらい気の強い男がおりました。
拷問をする側は、主婦が二名ほど、あとは大学生中心で、シフトを組んで、24時間体制で拷問をしていましたが、それでも、男は拷問に耐えるのでした。
拷問をする側の大学生たちも、最初はラクなバイトだと思いましたが、その男が時々、イヤなことを言うので、【メンタルにくるバイト】だと言って、辞めてしまう人もいました。
「苦しいだろ。いい加減にらくになったらどうだ?」「それはお前や。バイト辞めたいやろ?お前は、機械を使って、たくさんの人とルーティーンでオレを拷問してるから、拷問してるたくさんの奴らの中の一人にすぎひん。拷問する時に、先輩の口調を真似してるのも没個性でかわいそう。それに比べて、オレはたった一人で、この拷問を切り盛りしてる」
男にそう言われたバイト君は、半泣きになりながら「店長、ここのバイトやめます」と言いました。
店長は「仕方ないなあ。今日は拷問の続き、オレがやっとくわあ。どの指までいった?」と言いました。
バイトくんは、「もう、剥がす爪がありません」とだけ答えたあと、少しニッコリ笑って、「また近くに寄ったら、今度は普通にお客さんとして、遊びにきますね」と言いました。
店長は「うん。ありがとう」と言ったあと、男の目ん玉をアイスピックで突き刺しながら、叫びました。
「おい!!いい加減、ラクになれ!!地下鉄じゃなくて、メトロと言え!」
「いやや!地下鉄や!メトロなんて言うもんか!!」
こんなことが半年も続きました。
拷問をされるほうより拷問をする側のほうが、疲れてくるなんて、人類史上、はじめてのことです。
バイトは一人辞め、二人辞め、とうとう拷問をするのは店長一人になりました。
その間も、男は様々な拷問を耐え抜き、とうとう店長にこう言わせたのです。
「もういいわ。お前はもう地下鉄って言うたらええわ」と拷問をやめました。
そして、男は久しぶりに外に出ました。
やっと大好きな孫に会えました。
「おじいちゃん、久しぶり!今度メトロで水族館いきたーい」
男は、「そうやねえ。メトロで水族館いこうねえ」と言いました。
孫を前にして、いとも簡単にメトロと言ってしまったのです。
拷問よりも、おじいちゃんの心を動かし、逆らえないのは、いつの時代も孫なのです。
芸人、ネタ作家、短編小説家。“理系の変な奴”は自分で髪の毛を切ります。それが私。ついでの用事が二個ないとお墓参りに行かないです。
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